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エラを拡大(図2.1.9)すると、細かい毛、繊毛というものがたくさんはえています。5〜200ミクロンの小さいプランクトン、粒子をこの毛でからめ取っています。この粒子をいったんとらえて口に持っていくのですが、粒子数が海水中に多すぎると、食べずに粘液で固めて海底に戻します。

常にホタテは海の中のものを浄化しています。

 

ホタテガイの海水ろ過量

・殻長10cmホタテガイのろ過水量 53.2リットル/個/日

・ホタテガイの現存量 6.48億個体

・陸奥湾におけるホタテガイの総ろ過水量 3,447万トン/日

・水深20mまでの陸奥湾の水をろ過するのに必要な日数 963日

(1年で陸奥湾の38.5%をろ過する)

 

これは、いかにホタテが海水を浄化しているか、ということを示しています。

大体10cmの貝のろ過水量は、1日に1個体あたり53リットルくらいです。1升びん30本くらいです。人間ならばとても飲める量ではありませんが、それぐらい海水をこしていきます。

ホタテの場合、特に味で物を捉えているのではなく、大きさで捉えているので、5〜200ミクロンの大きさのものであればすべてエラに絡め取ってしまいます。例えば、ビーカーにホタテと泥などを入れると、ほとんど透明になっていきます。そのように、細かい粒子は落としていきます。

今、陸奥湾にいるホタテは、「桁が間違っているのではないか」と言われますが、春先には6億4800万枚、日本の人口の5倍くらいはいます。1個あたりのろ過水量とホタテの量を計算すると、1日に大体3447万トンの陸奥湾の水をホタテがろ過していることになります。

ホタテ養殖の水深平均を約20mとして計算すると、陸奥湾の水量はホタテのろ過水量の大体2.5倍になります。ホタテが陸奥湾全体をろ過するには、水交換も何もなかった場合、963日かかるということです。ただ、1年間に換算すると、約40%をホタテは毎年ろ過していることになります。

もしホタテがなければ、陸奥湾はもっと汚れた海でしょう。

 

植物プランクトンは窒素、リン、それから光合成を行って増えていくと言いましたが、窒素、リンは陸上系から来るものもかなり多いです。

陸奥湾のホタテは今9万トンくらいですから、ホタテが回収している窒素量は828トンになります。東京湾の流域人口は2,600万人で、東京湾に流入する窒素は1日315トンです。陸奥湾の流域人口は40万人、流入窒素量は4.8トンです。陸奥湾に流入する年間の窒素量は1,712トンになります。

つまり、陸奥湾のホタテは流入する窒素の大体半分を回収している、陸上に戻しているわけです。もし、ホタテがなければ、窒素が陸奥湾にどんどんたまっていくのではないかと考えています。

西田先生は「陸奥湾の流れはかなり弱いし、1回汚れるとなかなか元に戻すことは大変だ」とおっしゃいましたが、もしホタテがなければ、陸上系に窒素を戻す手段はなかなかなかったのではないかと考えています。これはちょうど昭和40年代中盤の高度成長期時代に運よく起きたという時代背景を持っています。陸奥湾のホタテが開発されていなければ、今、もっと陸奥湾は汚れていたのではないかと考えています。

 

陸奥湾の植物プランクトンの量は、春から夏、7月頃までに大体増えていきます。8〜9月は植物プランクトンの生産量はかなり落ちます。そして、秋になるとまた徐々に増えていきます。

植物プランクトンは平均すると水深20mより浅いところにあります。ホタテガイを水深15〜20mの中層に吊すのは、植物プランクトンがある場所なので成長がかなりよくなったからです。

 

 

 

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