CODなど汚濁の発生源は、生活系、産業系、畜産系、そして土地系つまり自然系に分けられます。社会活動の中では、生活系が大きな割合を占め、大きな汚濁源となっています。これをいかに下げていくかが、陸奥湾の良好な水質の保全に大きく関わってくるのです。下水道整備にしても、無限に資金を投入できるわけではありません。効率的な環境保全の方策を考えねばならないのです。
10年以上前、青森湾の調査を行いました。当時、青森市には新田と八重田の2ヶ所に終末処理場がありました。その処理場が汚濁負荷の軽減にどの程度の役割を果たしているかを調べました。
その結果、青森湾に流入する汚濁負荷(BOD)の内、河川から入ってくるものが54%、残り46%は2つの浄化センターに入り、処理されていました。浄化センターに流入した汚濁物質は、そのほとんどが除去され、その後陸奥湾に注がれます。つまり、浄化センターがあるために、青森湾に流入する汚濁負荷の約半分が除去されているということで、下水道整備による、負荷軽減の典型的な例と言えるでしょう。
これまでの話で、定性的ながら陸奥湾の水環境の現状がご理解いただけたと思います。しかし、なぜ閉鎖性の強い陸奥湾がこんなにきれいなのか。青森市を中心に多くの人が住み、さらに、海底にはヘドロが堆積しているにもかかわらず良好な水質を保っていられるのはなぜか。未だに疑問が残ります。この後の小坂さんの講演で、この答えが明らかになるかと思います。
◆ 水交換の現地観測
私たちは、現地観測によって水交換の実態を把握しようとしてきました。その結果を報告します。
湾口部を中心に1995年から現地観測を続けています。湾内の水がどのように出て、湾外の水がどう入ってくるのか、その水交換機構が明らかになれば、陸域から供給された汚濁物質がどのように残留し、また、外海に流出するかがわかり、水質の保全に向けた定量的方策が講じられます。
また、限られた現地観測結果からでは明らかにできない現象については、コンピュータを使ったシミュレーションによる解明も進めています。
図2.1.4に観測を実施してきた地点を示しました。水交換に津軽海峡の流れがどう影響するのかを調べるために、外海にも観測線を設けています。最も深い観測地点で水深160〜170mです。流速計を船にセットして、湾口断面の流速構造を連続して測り、水温、塩分、クロロフィル(植物性プランクトン)、濁度などの水質も計測します。
観測された湾口断面の流れの一例です。満潮から干潮を経て満潮に戻るまでの一潮汐の流れを平均して得られた「残差流」と呼ばれるものです。この結果から、潮汐による水の出入りを平均した実質の水交換構造がわかります。
西寄りの上層では最大30cm/sぐらいで流出し、中層では20〜30cm/sの流入、そして底層では僅かながら流出しています。しかし、このような水交換のパターンをいつも示すかというと、そうではなく、気象や海象状況の変化によっていろいろなパターンが存在することも、過去5年の観測でわかってきました。
湾口部の形状はシンプルであるのもかかわらず、内部の流れは非常に複雑な構造を有するのです。