国家というものができれば、海賊というのはいけないことだとなってきます。それでも、スールー諸島のような国境がはっきりしないところでは、無法地帯、紛争地帯でいろいろな海賊事件が多発するのは当然だと思います。
それで、現在の国際シンジケート、あるいは情報を駆使したIT海賊というようなことも言えるかもしれませんが、考えてみれば、アジアの国は、いまの国というふうに規定される以前はもっと自由で、あちこちに結びつきがありました。中国人、マレー人、インド人といろいろな人が結びつき、それぞれ交易関係を作っていたわけで、それがまた現在の情報によって結ばれてやっているとも言えると思います。ですから海賊そのものにとっても、いまの現象だけではなく、もっと掘り起こせば「なるほど、東南アジアはこういうところであったか」とうなずけるところがあるかと思います。以上でよろしいでしょうか。
司会:ありがとうございました。それでは何か質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。
質問:スライドの中でアガルアガルという海草の画面が出ましたが、日本語のカタカナかひらがなで書いてあったように読めました。海草が上がっているとか何とか読めたような気がしますが。
門田:日本語は出ていないと思いますが。
質問:そうですか。日本字が書いてあるのかと。
門田:いえ、日本字は書いていないと思います。
質問:それと今日お話を聞いていて興味を持ったのですが、先生が向こうの海賊の方たちと会って、実際にどういうふうにして襲うのかといったようなところまで聞き出した、その先生の海賊に対する興味と言いますか、どういう動機でそういうことを行われたのですか。
門田:スールー海というのは、さっき言いましたように非常に平和を愛する海のジプシーと言われるような船上生活をして暮らしている人もいれば、一方で、人を襲って殺しても何とも思わない人もいます。
私は最初、平和愛好家のほうに興味を持ちまして、そちらに行って『フィリピン漂海民』という本も書いたこともあります。そうすると、どうしてもう一方の、人を襲って何とも思わない連中がいるのだろうかということが知りたくなりました。それで私の友人の案内で海賊を訪ねたのです。そこらへんでは誰が海賊で、誰が悪いやっかということを皆知っています。だから、それほど難しいことではなく、コンタクトを取ることができました。