司会:本日の講師である増田義郎先生は、ラテンアメリカ文化史と大航海時代がご専門で、海賊の歴史的背景や習慣に通じておられる方です。また、セミナーの最後に皆さまからのご質問の時間を設けてありますので、疑問に思うところ、聞いてみたいところがあればお尋ねいただければと思います。
それでは、増田先生、よろしくお願いします。
増田:海賊という言葉ですが、これにはいろいろな言葉がありまして、日本語では海賊ですが、英語で言うと主な言葉だけでも、パイレート(pirate)、バッカニア(buccaneer)、プライヴァティア(privateer)、あるいはコーセア(corsair)とかいろいろな言葉があります。それぞれ意味合いが違いまして、歴史的な脈絡において使われます。
パイレートという言葉は、一番普通に英語で海賊という意味で使います。これはもともとギリシア語からきています。ギリシア語でそこであるようにペイルイン(peirein)、つまり襲撃するという意味からきた言葉です。海賊のことをギリシア人はペイラテス(peirates)と呼んでいたのです。それからきてラテン語では、つまりローマ人は海賊のことをピラータ(pirata)と言いました。襲撃する人間、それが英語にはいってパイレートになりました。スペイン語などではラテン語系のピラータという言葉を現在でも使っていますが、これが一番古い海賊という意味の言葉です。
言葉の起源がギリシア語であることからもわかりますが、ギリシア時代から、いや実はもっと古くから海賊はありました。ここがギリシアです。ここがご承知のようにアルチピラゴという多島海で、島がいっばいあります。島がいっぱいあるからここは海賊の巣の海でありました。ギリシア人というのはソクラテスとか、アリストテレスとか、いいギリシア人もいたけれど、悪いギリシア人もたくさんいました。海の上で泥棒をする悪いやつがいっぱいいたのです。
そのことは有名な『歴史』という本を書いたヘロドトスという人も書いています。それからアフリカの北岸にアレキサンドリアというところがありますが、アレキサンドリアで紀元2世紀ぐらいに作られた小説の中にも、海賊が出てくる話があります。そういうふうにギリシア人は一面、海賊であった。それからギリシア人と覇を争ったフェニキア人も、相当な海賊であったのです。古代のことを話していると、実にきりがないので簡単にしておきます。