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人間そのものも、細胞から遺伝子に至るまで、すべて物質化して分析し、解明を試みるのです。しかし、バラバラにして分析することですべてがわかるのかと言うと、結局はわからない。心や精神といったものは、物質に還元することでは決して解明できないものだからです。

倫理や道徳は、まさにこの心の問題です。従来、心の問題を科学として議論することはタブー視されていましたが、それがもとで人間社会は非常にバランスを欠いたものになったと思います。昨今、心があまりにも無視されてきたことで、様々な歪(ひず)みが生じているということに、ようやく多くの人が気づきはじめました。例えば、肉体的な病気や犯罪行為でも心にその原因が求められたり、災害でも負傷者対策や経済的な損失といった外面的な事柄だけでなく、心のケアにも関心が高まっています。

先ほども述べましたように、これまでの科学は、物質に焦点を当てることで発展してきました。これからは、心とは何なのか、心の状態が社会に対してどのような影響を与えるのかというような、精神が及ぼす作用を研究する時代になるでしょう。物質と同じように、心や精神も科学的知性で解明していく時代、それが二十一世紀ではないでしょうか。そこから、単なる伝統回帰ではない新しい倫理・道徳、現代人も納得のできる正しい心のあり方が明らかにされることもあるように思います。

 

 

 

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