ちょうどその頃、石田梅岩の心学に触れる機会に恵まれたのです。「武士が禄を食(は)むのと、商人が利を得るのは同じである」という考え方に接し、わが意を得たりと思ったものです。われわれは決して邪(よこしま)な心で商売をしているのではない、世のため人のために商売をしているのであり、正しい商いで正々堂々と儲ければいい。それを江戸時代のあの封建社会の中で言ってくれた人がいたということに、私は大変勇気づけられました。
現代の日本でベンチャー企業が生まれない要因の一つに、企業経営者が尊敬されるような社会になっていないことが挙げられると思います。企業経営者、特に中小企業経営者には社会的ステイタスがなく、社会から認知されないという悲しい現実があるのです。そのような風潮の中では、ベンチャー企業の登場はあまり期待できません。健全な産業社会を育むためにも、企業人が社会から蔑視されるようなことがあってはならないのです。
そういう意味でも、私たち企業人は、国家を支え、世界の経済を底辺から支えているのは自分たちなのだという誇りと自覚をもって経営に臨むべきでしょう。そのためにも、梅岩が教える素晴らしい企業経営の倫理・道徳を身につけ、誇るべき哲学をもって経営していかなければなりません。