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従来の会社組織の因習に囚われない考え方は、稲盛氏による日本史の解釈にも表れています。稲盛氏は明治維新の革新的なリーダーを讃え、特に福沢諭吉を尊敬しています。しかし明治時代だからこそ正当化された富国強兵の政策により、二十世紀初頭の危険な時代が生まれたことに対しては遺憾の意を表しています。同様に稲盛氏は、日本が精力的に戦後の復興を成し遂げたことを讃える一方で、一九七〇年代から八○年代にかけての“エコノミック・アニマル”ぶりを批判し、それが一九九〇年以降の問題を引き起こす原因になったとしています(『新しい日本 新しい経営』)。

もっとドラスティックに言うと、稲盛氏は日本という国がもつ強さや気高さを信じており、それ故に現在の日本のあり方を批判し、価値観の転換を叫んでいるのです。

 

システムを転換するには、われわれの身にしみついた価値観も変えなければならない。稲作農耕型の「和をもって尊しとなす」価値観、つまり自分の集団内部の閉鎖的な秩序維持や自分たちの利益になることにしか関心を持てない「ムラ」社会の論理に決別しなければならない。

 

 

 

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