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自分たちのメンバーの救済や援助だけに囚われている偏狭な考えのグループは、たとえ外部の人々に敵対心をもつことを教えなくても、社会全体の発展に寄与するだけの心の広さを持ち合わせているとは言えません。例えばキリスト教の団体には、自分たちのメンバーだけが救済され、彼らの教えに改宗しない者は皆地獄に堕ちると考える人たちがいます。そのようなグループが社会全体の健全な発展に寄与することは、まずないでしょう。

心学のようなグループについて考えてみるとき、ふと思うことがあります。社会が弱体化していった状況の中で、心学に関わった人々は社会全体のことよりも、自分たちが生き残ることを第一に考えたのではないかということです。それでも社会全体に資するという考え方は、心学に伝えられていますし、特に梅岩の教えには顕著です。梅岩はそれが誰であろうとも貧しい人々を常に気遣っていましたし、彼の教えは道徳的な生き方に寄与し、他の教えにも価値があるとして否定することはありませんでした。このことを鑑(かんが)みると心学の教えは、グループ内の結束力を高める“絆”だけでなく、グループ同士をつなぎ合わせる“橋渡し”の役目も果たすという、両方の社会資本を持ち合わせているのではないかということです。

 

 

 

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