この会社は三代目ということで、あまり大きな会社ではありませんが、三百五十人の従業員がいました。このブッチャー氏はだんだん年を取って七十歳ぐらいになったので、いつまでも仕事をやっていくのはいやだけれども、自分の子は誰も経営を継いでくれない。だから売却したいと。
そのときに石田梅岩を彷佛とさせることが三つありました。彼はどうやって利益を最大にしようかと考えたのではなくて、会社を売却しても従業員のクビ切りをしない人にだけこの仕事を渡したい。そしてダウンサイジングをしないところに渡したい。つまり従業員のことを考えたわけです。
二番目には、売却で得た利益の一八○○万ドルを従業員に年功序列で、どれだけ勤続したか、その年数によって渡したということです。各従業員はボーナスで平均五万ドルを手にしたと言いますから、円だといくらになるでしょうか、いずれにしてもかなりの大金です。ブッチャー氏は、従業員こそがこの会社を築き上げてくれたのに、自分がリタイアするという理由で全部なくしてしまっていいのか、まずは彼らの仕事を守りたい、そして自分の利益の一部をその人たちに回したいと考えたのです。