科学的な思考をさせることによって近代文明を日本に定着させようとしたために、心の問題を迷信として、宗教、道徳なども合めて、そういう迷信は科学の発展を阻害するもとだとして否定したわけです。
つまり心の問題というのは、どうもうさん臭いというので、もっとロジカルに説明のつく科学文明の発展に力を注いだわけです。その結果、心の問題がないがしろにされてしまった。宗教も道徳も倫理もすべてが置き去りにされてしまったのです。そして科学技術が進展し、経済が発展し、物質文明が急速に進行するなかで、人心が荒廃していった。その結果、現在の社会でいろいろな問題が出てきたのではないでしょうか。これは世界的にも大変問題になってきていることだと思います。
その意味で、ちょうど二十一世紀に入ろうとする今、科学技術、経済一辺倒ではなく、人間はどのようにして生きていくべきか、という「心」に立脚した議論が展開され、それをべースに企業人のあり方や社会のあり方が問われるような時代になったのではないかと思います。そのためにも石田梅岩の石門心学に学ぶべき点が大いにあると思います。今日こうして一三〇〇名を超える方々が心学について議論をしようと熱心に集まって来られたことが表すように、社会がそういうものを求めている時代に入ったのではないかと思います。