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『孤独なボウリング』というパットナム先生の本を紹介しましたが、サブタイトルが「アメリカ社会の崩壊と再生」となっています。この中身を見てみると、崩壊のことばかりで再生の報告はあまりありません。それが今の状況ではないでしょうか。問題は、今でも私たちは手段ばかり考えていて究極の目的を十分にとらえていないということだと思います。

先ほど上田先生が三つのポイントをおっしゃいました。まず、今なぜ石田梅岩なのか、石門心学なのかということですが、それが今の問題と関係があると思います。近代の考えでは伝統はマイナスに受け取られてしまって、伝統から抜け出そうと考えがちです。しかし伝統とは実質、内容だと思います。それがあって初めて私たちは生活ができるのですが、近代になると手段ばかりを考えていると思います。戦略や戦術、もちろん物事のやり方を知らなければなりませんし、科学の発達、技術の発達、コミュニケーションの発達のいずれも重要ですが、それだけでは実質、内容、すなわち倫理的な、道徳的な内容が伴わないと思います。

ですから今のご質問のような信頼できる人間関係のある社会をつくるためには、そして上田先生が言われた最初の問いかけについての答えとして考えられるのは、私たちが私たちの道徳生活の中身を考えるときに伝統の最良のものに求めるしかないのではないかということです。

 

 

 

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