そのようにして私も大学を出て会社に戻り、仕事を始めました。いわゆる高度成長時代、一九六〇年代です。その後、高度成長時代が終わって低成長になったときに、ふと私は祖父の教えを思い出したのです。石田梅岩という人がいた。そして勤勉、倹約、正直を教えてもらった。もう一度それを思い出そうと思って、片端から石門心学の本を読んで勉強しました。当時、京都の経済界は中堅企業が多いということで、東京や大阪の経営者に自慢がちにそれを宣伝していることがありました。ところが、ふと考えますと、そのときに活躍している京都の経営者は京都人ではなかったのです。そのときよりも時代が数年遅くなりますが、稲盛さんは鹿児島の方ですし、ワコールの亡くなった塚本幸一社長は滋賀のご出身、やはり亡くなられましたが、商工会議所会頭をしておられた森下弘さんは奈良のご出身、またオムロンの創始者の立石一真さんは熊本のご出身でした。私は大変寂しく思いまして、私どもの先祖は何をしたのだろうかということで勉強している途中に行き当たったのが石門心学でした。
