日本財団 図書館


十九世紀初頭に始まってから近代経済の発展はずっと問題の多いものであったので、一九五〇年代のあのような楽観主義の根底はいったい何だったのかと聞いてみたくなります。経済成長ですべての問題が解決できるという考え方が今でもありますが、学会では五〇年代ほどその考え方は支持されていません。しかし、そういった背景において私はこの本を書いたわけです。

日本は「近代産業国」に姿を変えつつあり、そのために日本の前近代文化が日本の成功にどれだけ貢献したかを理解することは興味深いという考え方が当時はあり、私はこうした環境の中で『徳川時代の宗教』を書きました。こうした考え方において、宗教を含めた前近代文化は経済発展という目的を達成するための単なる手段と考えられがちであり、それ自体の意味の考察は十分に真剣になされませんでした。

それゆえに私の本の最大の弱点は日本と関係があるのではなく、私の近代化理論のもつ弱点と関係しているのです。終わりのない富の蓄積が必ずしもいい社会につながるのではなく、その反対に社会を徐々に弱らせることを私は見落としていたのです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION