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「商人の道と云とも何ぞ士農工の道に替ること有らんや。孟子も道は一なりとの玉ふ。士農工商ともに天の一物なり。天に二つの道有らんや」

 

徳川時代の創造的精神

このような生い立ちの梅岩が道徳的普遍性の師となろうとしたことを、誰も期待しませんでした。多くの人々にとって、商家の古番頭が突然、自分を哲学者と呼んで、そしてすべての人に向かって講釈を始めることは実にばかばかしいことでした。梅岩は権威のない師の弟子であり、どの学派にも属していませんでした。彼は僧侶でもなく、また富も地位ももっていませんでした。梅岩は、自分は無学で、そして文語体(漢文)も不得意であると謙虚に言い、そして多くの人が難なくそれに同意しました。

梅岩は著書『斉家論」の冒頭で、「多くの人が彼を批判し、ある者は彼の面前では褒め、陰では嘲笑し、また多くの者が、そのような無学な者は他人を教えるには適さないと言った」と述べています。さらに「自分自身で講釈をつくったのではなく、以前聞いた講釈を理解もせずに繰り返しているにすぎないと言う人がいた」と述べています。

 

 

 

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