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心の学問とは言っても、心学は今で言う心理学のことではありません。心理学的な部分も当然含まれるでしょうが、心理学は科学、サイエンスに属するものであります。心学は科学ではなく、強いて分類すれば宗教と言えるでしょう。宗教という言葉は科学と同じように日本では明治時代に造られた言葉です。それ以前において宗教に該当する言葉を探せば「道徳」になります。

道徳とは「徳ヲ導ク」ということです。徳とは心のことで、人間としての生き方の拠り所となるものは心にあり、人間が人間として生きる道も本来、心に具(そな)わっているというのが道徳なる言葉のもともとの意味合いであります。そこで、道徳の二字を一字に詰めて言い換えるとこれは心―こころということになるのです。

ですから、心学、つまり心の学問とは道徳のことであり、宗教のことであると言えると思います。道徳や宗教を、特定の教えや特定の宗派・教団に求めずに、こころに求めるのが心学の立場であり、行き方であります。そうした行き方や立場を可能にするためには、こころを自分の心という狭い枠組みでとらえるのではなくて、時間も空間も超えた、あらゆるものに行き渡った普遍的なものとしてとらえることのできる、ある種の「信仰心」が前提としてなければならないのであります。仏教でいう「お悟り」もこの信仰心の一種であります。

 

 

 

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