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すでにお話しましたが、梅岩は他の職業が尊重されるのと同じように、商人も社会に貢献することで尊重されるべきだと信じていました。梅岩は、伝統的社会の中で責任ある商人が果たすべき古典的な徳として、誠実さ、勤勉、質素を特に強調しました。しかし梅岩にとって一番重要だったのは、経済が貢献するよい形の生活であって、経済が支配する生活ではありません。梅岩の倫理観は主に儒教から得られたもので、儒教の主な徳である「五倫」を重視して説きました。近代の中国と日本において、この「五倫」は時代遅れの階級権威社会を増強する「封建的価値観」として批判されましたが、例えば日本の戦前の国民の道徳教育のように、そういう方法に利用されてきているのは確かです。しかしツー・ウェイ・ミンや今日のその他の学者たちは儒教をより深く理解し、儒教は特殊な「封建的」な社会を支持しているのではなく、全体的な人間のためのよい生活を求めたものだと評価しています。主人と家来の関係は、市民が互いに負っている義務、また依存している社会に対して負っている義務、そして社会が彼等に保証すべき権利であると解釈することができます。親と子、夫と妻、兄と弟あるいは姉と妹の関係は、家族の中で持つべき敬意と支援の基本形とみることができます。友人の間の関係は、すべての民主的社会が依存すべき基本的な市民の交友関係を表わしています。市民の交友関係が存在することによって、大部分の人々は「ほとんどの人は信頼できる」と感じ、これがよい社会を作るための最も安全な基盤の一つだと信じられるのです。

儒教の徳、特に仁と義は、社会のすべての人々、特に貧しい人々あるいは不幸や災難で困っている人々のために重要な義務を伴うのだと梅岩はすでに解釈していました。伝統的社会では自然環境と戦ってきましたが、当時の人々は私たちほど自然を破壊する技術的能力はありませんでした。東アジア文化全体では、また特に日本文化においては、自然に対する感受性や畏敬の念が強く、環境保護の強力な倫理はありませんでした。ここでは近代の倫理的認識によって伝統が補われていくはずです。

 

 

 

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