日本財団 図書館


徳川時代の中期は鎖国の真っ只中にあったにもかかわらず開国主義の雰囲気がありましたが、今日の日本は開国の真っ只中にあるにもかかわらず、鎖国主義の雰囲気が見うけられます。

日本もアメリカも近代化の結果生じた問題に直面しており、この解決方法は簡単には見つかりません。両国の社会は国家の意味あるいはその意味の欠如の問題に取り組みながら、共に経済成長を追い求めてきました。しかし、近代化そのものの基本的な前提が何かということを考えなければ、そして特に、よい社会を達成するための方法である経済成長を目的にしてしまう傾向―ここではすべてのものが犠牲にされますが―を問題にしなければ、私たちは問題解決の最初の一歩も踏み出せないでしょう。すでにお話しましたが、『徳川時代の宗教』の中で、富と力の絶え間ない蓄積そのものは良いことであると仮定して、私は近代化の理論で道をそれてしまいました。また、他の意見の抑制を受けない富と力の蓄積からはよい社会は生まれないどころか、むしろ発展し得るどの社会にも必要な条件を害するのだ、ということに気付きませんでした。近代化には目的と手段を取り違える危険性、手段を目的としてしまう危険性があり、これがまさに近代化の病の源となっています。

日本が今直面しているユニークな難問とは、経済がもはや主人ではなく本当によい社会のしもべでしかない社会を創り上げることです。これは開発途上国では非常に受け入れ難い問題でしょう。日本は国民一人当りでは世界一裕福な国です(ただし、いくつかのアラブの小さな王国は除いてですが)。したがって、日本は他の方法で世界の国々と競合することができるでしょう。つまり、限りない経済成長ではなく、他の人々を奮起させるような素晴しい生活の形を創造し、環境や住民を守り尊重する社会を建設するのです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION