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パットナムはアメリカ社会は基本的に変化する必要があると説いています。たとえ社会が経済的に成功をおさめていても、その社会が若い人々から意味や誠実な関係を築く能力を取り上げているならば、何かが大きく間違っているのです。この社会において、また特にこの社会で今暴れ回っている急進的個人主義。いったい日本は何をコピーしたいのでしょうか。

個人主義の行きすぎはアメリカ人にとって悪いものですが、日本人はその個人主義を充分に持っていないので、もっと個人主義が必要だと言うことができるかもしれません。私は日本人の団体への忠実さとアメリカ人の個人主義の間に完全な中道を発見できればよいと考えてきました。残念ながら、個人主義は望んだ量になるまでスイッチを入れて、その後はまた消すというようなものではありません。かつてアメリカにもあった、強力な倫理的背景、地域の義務感の中でなければ、個人主義は社会関係と文化の意味のあらゆる形を徐々に蝕んでいくでしょう。ですから、日本人が健全な方法でもっと個人主義的になるには、小渕首相の懇談会がほとんど注意を向けなかった、こうした変化のための倫理と社会の背景を注意深く考察する必要があります。

つまり、どんなに発展した近代社会にもあるように、もし日本社会に問題があるとすれば、その解決のために採用できる外国のモデルはありません。今求められているのは、アジア、ヨーロッパ、アメリカそして日本の過去から学んだ方法や手段を使って、日本人が自ら開発した新しい思考や感覚の方法を試す、創造性のある実験の時代です。心学運動も含め、開放性と実験主義にあふれた徳川時代の中期は、そのままそっくりコピーするというわけではありませんが、創造的な発明に刺激を与えるものとして利用できる一つの例と言えましょう。

日本は活力のある創造性を持っているにもかかわらず、外部の者は今日の日本に対して、落ち込みつつある国、世界の中の自分の役割に確信が持てず、再び自信を取り戻すために自国の歴史の重視、国体などの古い象徴へ回帰しようとしている国という印象を持っています。

 

 

 

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