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それは神と国の間の特別な関係の概念です。アメリカ人は自分たちを「選ばれた民」「神の新しい選民」、「救世主の国」と信じてきました。アメリカ合州国の国璽にはラテン語のモットーの一つとして、ウェルギリウスのことばで新訳聖書の意味を強く感じさせる「世紀の新秩序」が取り上げられ、18世紀末のアメリカ共和国の建設は非宗教的なイメージと宗教的なイメージを合体させました。アメリカは他の国々のモデル、自由な民主共和国、すべての民族の模範になると考えられていました。

この考え方はその後のアメリカの歴史の中に常に存在し、20世紀の2つの世界大戦、そしてもちろん冷戦もこうした見方で見られてきました。冷戦によって、アメリカ人はソビエト連邦の「悪魔の帝国」に対抗して「自由な世界」を導くのが自分たちの特別な使命であり、自分たちは神の意志を実践しているのだと考えました。1989年の冷戦の終結と共に、アメリカを「救世主の国」とする思想は終っているべきだったと私は思います。それにもかかわらず、様々な形に姿を変え、こうした思想は生き残り、アメリカ合州国はその自由市場経済と民主政治によって全ての国家のモデルであるとされました。すでに戦うべき悪魔の帝国は存在していませんでしたが、アメリカ人は独自の近代性を世界中に輸出しようとしつづけ、世界の国々がアメリカのようになるように圧力をかけていました。

近代ナショナリズムは、国家の独自性と優越性という考えをもたらしましたが、日本ほど神聖な使命をかかげて、アメリカと張り合う国はないでしょう。日本の島々は神々によって創られ、天皇は天照大神の子孫であるとする思想は、日本の神話に出てくる最初の神々までさかのぼります。日本の歴史においてこうした思想が完全に失われたことはなく、徳川時代は特に国学運動と重要な思想家であった本居宣長と平田篤胤によって復活しました。明治時代の強力な近代国家の形成によって、象徴的な儀式、公立学校での国民道徳の教え、国体の思想を通して、こうした思想が一般の文化の中に導入されました。

 

 

 

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