日本財団 図書館


それゆえに、私の本の最大の弱点は、日本と関係があるのではなく、私の近代化理論の持つ弱点と関係しているのです。終りのない富の蓄積が必ずしもよい社会につながるのではなく、その反対に社会を徐々に弱らせることを私は見落としたのです。この本の一番最後の箇所で、私は日本の「宗教のための宗教」について少し書いており、石田梅岩と心学運動についての章を含め、この本の内容の多くは徳川時代の宗教の本質を理解しようとしたものです。しかし、この本の大きな枠組みの中では、宗教を一元的な経済目的の手段としてとらえようとしています。

宗教的な教えと経済発展の間には関連性がありますが、宗教を経済発展のための単なる手段と見なすのは誤りです。宗教は重要な意味を持つもの、道徳的価値に関連するものです。石田梅岩は正直さと勤勉を説き、弟子が道を発見し世の中で道徳的に行動することを求めました。宗教を金持ちになるための単なる実用的手段として利用するのは、梅岩の意図するところでも宗教改革者たちの目的でもありませんでした。梅岩は武士が俸給を得るように、商人が正当な利益をあげることは道理にかなっていると考えていました。しかし、梅岩は商人の基本的な天職は社会に仕えることであり、他のすべてを犠牲にして利益を最大限に増やすことだとは考えませんでした。丸山真男は宗教と政治の関係についての疑問を提起し私を批判しましたが、丸山は、もし私が『徳川時代の宗教』の中で宗教と経済に過度に焦点を当てていれば、日本の近代史の中でいくつかの不幸な結果をもたらしたであろうと見ています。宗教は強力な力を持っているので、どんな社会においても重要な経済的、政治的な結果をもたらすこと、また他の目的に利用されるのは当然です。

ここで私はしばらく日本とアメリカの比較をしてみたいと思います。日本とアメリカは世界の中で二つの大きな経済生産社会です。これは重要な要素の一つですが、あまり注目されていないもう一つの要素、アメリカと日本を他の国々と区別するある特別な要素があり、これはいくつかの点において似ています。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION