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梅岩の宗教的道徳的思考の特色は首尾一貫した普遍性でした。梅岩は徳川の階級序列を自分の教えの中に受け入れ、置かれた地位において義務を果たすように人々に熱心に説きました。しかし、梅岩は人間の間に本質的な違いはないと考えました。親に対する孝行を熱心に実践している貧しい農民の方が、説教するだけで徳を実践しない学者より上であると梅岩は考えたのです。親に対する孝行心と忠誠心など、梅岩は人々が自分の地位の中で実践すべき儒教の徳を特に説きましたが、また普遍的な道徳的義務も力説しました。「広く人を愛し、貧窮の人をあわれみ...」と梅岩は説き、洪水や飢饉が起きた時は苦しんでいる人々のために慈善活動を組織しました。

石田梅岩は人々に教えた通りに生きました。多くの困難を乗り越えて、生涯ずっと道を追い求め続け、道を人々に説くという事業に熱心に取り組みました。講釈を始めた頃は、出席したのはたった一人で、その人物は「我一人のため講釈したまはん事、其労、はゞかりあれば、今宵は休み給えかし」と言いました。すると梅岩は「我、講釈をはじむる時、たゞ見台とさし向ひとおもひしに、聴衆一人にてもあれば、満足なり」と言って講釈を行いました。梅岩以前あるいは以後の多くの宗教の師とは異なり、梅岩は自分の地位を力や金という利己的な目的に利用することはありませんでした。梅岩の生活は質素であり、すべてを寄付してしまっています。『石田先生事蹟』の中で弟子たちはこう書いています。

 

「没後、宅に遺りし物、書三櫃、また平生(ふだん)人の問に答へたまふ語の草稿、見台、机、硯、衣類、日用の器物のみ」

 

 

 

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