畳の古縁(ベリ)は、ほこり払ひにして用い給ふ。平生みづから髪をゆひたまふ。元結はあらひて、いくたびももちひたまへり。
乞食に物を施したまふに、あたふる時は速やかにあたへ、又用事に取りかかりなどして、あたへたまはぬときは、声を高くし与へぬよし厳しくいひたまふ。是はしばらくも、無益に立留まらせまじきがためなり。
箔をおきたる墨は用ひたまはず。墨の磨屑(スリクズ)、又硯に付きたる墨のかすをも、こそげて貯へ置き給ふ。是は墨にて塗るべき物ある時に、用ひたまはんがためなり。
すべて紙にて封じたる物をときたまふに、必ず封じめを水にてしめし披(ヒラ)きたまへり。是は紙を破らぬやうにとなり。障子を張りし紙の古きは、紙のちからなきゆゑ、用ひやうなき物なれども、これをもやぶらぬやうにはなし置きて・厩けおとし紙に用ひたまへり。さなきは紙は少しの切にても紙くず籠へ入れ、聊かも捨てたまふことなし。紙屑を売りたまふには、貧しと見ゆる者へうり、あたひは買う者のいふごとくにまかせたまへり。
何にても結構なる物を用ひたまはず、惣じて麁なる物を用ひたまへり。
先生曰、今上皇帝を拝し奉る事、下民(カミン)において恐れあり。天照皇太神宮を拝し奉るうちに、即ち摂在(カネイマ)せるなり。
禁裏へ拝見のことありて参りたまふには、必ず沐浴(ユアミ)したまへり。南門の前にては天照皇太神宮を拝し奉る心にて過給ふとなり。
雷鳴の時は、深夜といえども、必ず起きて正しく座して、つつしみたまへり。
貴人へ見給(マミエ)ふ時は、かならず沐浴したまへり。