まえがき
われわれ「海洋国家セミナーグループ」は、そのメンバーを入れ替えながら、いってみれば駅伝やリレーのように走りつなぎつつ、三年間のマラソン討議を経て、「日本のアイデンティティとは何か」「二十一世紀日本の大戦略とは何か」「海洋国家日本の構想とは何か」と問いつづけてきた。
これらの問題提起の出発点には、冷戦が終焉し、ボーダーレス化あるいはグローバル化と呼ばれる大きな力が世界を覆おうとしているなかで、日本と日本人が自己の座標軸を見失い、進むべき方向の感覚を喪失しているように見えることへの危機感があった。そのような危機感は、日本と日本人だけのものではなく、冷戦の終焉後多かれ少なかれどこの国と国民も経験しつつあることではあったが、その危機感を自己認識の確立と戦略的方向感覚の形成に向けて巧みに結晶させつつある国とそうでない国の間の落差は、いよいよ大きくなりつつある。それはIT(情報技術)活用の有無を反映したデジタル・デヴァイド(貧富の格差)と並ぶもう一つの落差であるといわなければならない。
「世界は世界市民から成る国境のない世界村になりつつある。国家や国境や政府は意味を失いつつあり、個人や市場やNGOが二十一世紀世界の主人公になるのだ」といった議論が、たんなる観念論としてではなく、「もしかしたら、本当にそうなるのかもしれない」と思わせるリアリティをもって語られている。