次に、地域秩序のレベルで日本が何をすべきかということについての私の提言は、東アジア地域の協力体制強化への寄与ということであります。私がタイに勤務しておりましたときにアジア経済危機が起こりましたけれども、危機を通じて浮き彫りにされたのは、東アジア地域がいかに日本に経済的に依存しているかということであり、同時に、日本に対する期待がいかに大きいかということでありました。日本は、IMFのスタンド・バイ・クレジットをはじめ、いろいろな形でその期待にこたえたわけですけれども、もう一つ浮き彫りにされたのは、今回のような経済危機に対処する地域的な協力体制が東アジアにないということでありました。ASEANがありますけれども、こういう経済危機に対応する機構ではないわけであります。日本が危機の発生の直後にアジア通貨基金構想を打ち上げましたけれども、アメリカの反対でつぶされました。その後、ASEANプラス3という動きにかなりはずみがついてきて、これはかつて、ご承知のようにマハティールが述べた構想ですけれども、最近はASEANプラス3ということで首脳レベルの会合が定着しつつあります。私は、日本がイニシアチブをとってASEANプラス3を軸に東アジアの協力体制を強化すべきであろうと考えます。経済危機を契機にこういう動きが出てきたものですから、当初は通貨面の協力ということをやっておりますけれども、いずれは自由貿易体制あるいはそれを超える協力体制をつくるべきではないかというふうに考えております。
この構想を推進するに当って幾つか配慮する点がありまして、1つはアメリカとの関係であります。アメリカは、ご承知のようにEAECに反対したし、アジア通貨基金構想にも反対しましたけれども、日本がこういう構想を打ち出す、あるいは支援するといって、別にアメリカの意向に反対しているわけではないので、先ほどの岡崎大使の話にもありましたが、日本にとって日米安保体制というのは国の根幹をなす基軸でありまして、それの代替として東アジア協力を考えているのでは毛頭ないということをアメリカに十分理解してもらう必要があります。むしろ、日本がこういうイニシアチブをとることは、日本の活性化という点からいってアメリカにとっても歓迎すべきだということをよく理解してもらう必要があると思います。
第2に配慮すべきは中国との関係でありまして、21世紀の東アジア情勢で最も重要なかぎを握るのは中国の動向であることは言うまでもありません。中国がどこまで覇権主義的になるかどうかは、この地域の最大の関心事の1つであって、日本としては、日米同盟を確固としたものとする一方で、中国が少しでも開かれた協力的な姿勢をとるように働きかけるべきではないかと思います。