3. 基調報告:太田博 日本国際フォーラム専務理事
太田博 私の基調報告は、大筋において、きょう皆様にお配りした本に掲載されているところですけれども、きょう初めてこの本をごらんになる方が多いと思いますので、重複をいとわず、掲載されているところに沿ってお話をさせていただきたいと思います。
日本が海洋国家として何をすべきかの議論をするに際して、もう一度、日本のアイデンティティの話に戻りますと、特に2年前の議論の過程で、日本のアイデンティティというのは、それが和であるとか、自然の重視であるとか、あるいは平等社会であるとか、勤勉であるとか、いわば言ってみれば、文化論あるいは日本人論的な議論が多く行われたわけですけれども、このプロジェクトの趣旨からいうと、やはりアイデンティティというのは、国際政治あるいは世界史の展開という視点から考えるべきではないかと思います。そういう視点に立って、日本のアイデンティティとして2つ申したいと思います。
1つは、当然といえば当然なんですけれども、「北東アジアに位置する四面環海の海洋国家」ということだと思います。日本が海洋国家であるということについては、大きく言って2種類のコメントがあって、1つは、午前中に「海岸国家」という表現がありましたけれども、海洋国家よりはむしろ島国ではないか。鎖国もしたし、メンタリティーも内向きで、リスクをなかなかとらないと、そういう議論が行われました。第2のコメントは、海洋というのはもう古いのではないか。空もあるし、情報もあるではないか。今、岡崎大使の話では、それにもかかわらず、依然として海というのが非常に重要だというお話がありましたけれども、そういうコメントがありました。
第1の、日本がむしろ島国ではないかという点については、地理的あるいは経済的交易という点からいって、日本が海洋国家であることは疑いがないところであると思います。ただ、日本人のメンタリティー、姿勢が問われていることは確かであって、特に北東アジアに位置する海洋国家という点からいうと、伝統的な大陸国家である中国との対比で日本の姿勢が問われるということがあると思います。
それから第2の、今さら海でもあるまいという点につきましては、けさの議論にも出ておりましたけれども、必ずしも物理的な海洋ということにとらわれずに、姿勢の問題、つまり、海洋国家であるということは、世界の新しい秩序づくりに貢献することが日本の国益であると考える。つまり開かれた国益、エンライトゥンド・セルフ・インタレストあるいはナショナル・インタレストといいますか、そういう考え方をすることを象徴的に海洋国家ということかと思います。