それで、もう一度読んでみましたけれども、海洋国家ということに結びつけると極めて話は限られてまいりまして、結局、同じようなことをお話ししなきゃいけないのかなと。むしろ、北東アジアの地域秩序を中心にお話ししたほうがいいのかなと思っておりましたけれども、その間、外務省の加藤良三氏、これは外務省の外務審議官です。次官の次の次席の方ですけれども、それが中央公論の新年号に「日米同盟の空洞化を恐れる」と、そういう論文を書いております。この論文の中心がシーレーン―シーレーンというと語弊があるんですけれども、シーパワーの問題を扱っているわけです。これは実務家ですし、大変実力のある方ですから、どういうことを書いてあるかなと思って、ちょっと詳しく読んでみました。
この方は実務家で、学者じゃありませんので、抽象化とか整理はそうないのでございますけれども、やはり一番大事な問題点は全部入っているような気がいたします。まず、冷戦が終わったと。日本の防衛をどうするんだと、それが問題意識ですね。そこで、変わったものと変わらないものがあると。変わったものはソ連の脅威だと。変わらないものは中東石油に対する依存度と。これ、ちょっと唐突なような感じがいたしまして、ほかにもあるじゃないかという議論があるかもしれませんけれども、我々、思い返してみますと、1970年代と80年代を通じまして日本が一番脅威に感じたことが2つございます。それは、ソ連が攻めてくること。もう一つは、もう一度、石油が切られることですね。結局それ以外は、朝鮮半島も台湾海峡もかなり重大な国際問題でありますけれども、場合によっては日本は対岸の火事で済むかもしれない。ただ、このソ連の脅威と石油の問題、エネルギーの問題、これだけはほんとうに日本に直接影響のある問題でございました。そう言ってみれば、ソ連のほうはなくなったけれども、石油のほうは残っていると。その問題は確かに正確だろうと思います。
これは1つの例として、それから議論を発展させて、午前中もご討議されていた海洋国家問題、海洋国家か大陸国家かという問題ですね。この問題は、海洋国家と言ったのは、たしか戦後は高坂さんが先だと思いますけれども、非常に説得力のある議論なんですが、私は最後までそれでいいのかどうかちょっと疑問は持っていたんです。ただ、いろんな現象に符合することは間違いございません。とにかく、戦争前は「海を制する者は世界を制す」と。これは日本の軍事思想というか、日本の国家思想の中心だったんですね。これは世界的にそうなんです。