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それじゃあ、遠藤さん、どうぞ。

遠藤浩一 量より質の追求が肝要であるというのは、全くそのとおりだと思うんですけど、そのことと人口問題というのは、そう軽々に結びつけられないんじゃないでしょうか。

今、伊藤先生からお話がありましたベネチアは、海洋国家として発展途上にあるときは人口も増えていた。若者の数がどんどん増えると、彼らに海外に最新の航海術を覚えさせ、あるいは優秀な者はエリートとして育成して、国家全体の質が量の拡大とともに高くなっていった。それが17世紀までのベネチアが大きく飛躍していった背景にあった。ところが17世紀を頂点として、その後、ベネチアが衰退していった背景の1つに少子化問題があったんですね。ベネチアでは繁栄の過程で、しだいに貧富が固定化していって、職業間の移動というのがなかなか難しくなっていった。職業移動が固定化され、人口の絶対数の低減とともに質も低下すると、スペインやイタリアで生み出された最新の航海術をベネチアで再生することができなくなった。そして、海洋国家というよりは、農業を重視するなど、だんだん内陸的になっていったんですね。それに伴って、今度はエリートが衰退していった。そして、今あるものをどう守るかということに国家の目標がどんどんどんどん縮小していった。まるで現在のどこかの国と同じですね。こういうベネチアの例に思いを致すならば、人口問題というのはあまり安易に考えるべきではない。このまま人口が減るに任せていいといっても、それが質の確保に結びつく保証ばどこにもないのです。いやむしろ質の劇的低下をもたらす危険性があると言わざるをえません。私は高齢社会がすべて悪いとは思いませんし、高齢化社会も成熟した社会の必然であるとするならば、それをどう生き生きとしたものにするかという発想は是非とも必要だと思う。しかしそのことは、出生率の低下を放置していいということにはならない。強烈な逆ピラミッドの人口構成比になる中で、いかにして質を維持していくかということを考えると、むしろ私はあまり楽観できなくて、絶望的にならざるを得ない。海洋国家日本の挑戦は、少子化といかに闘うかということでもあろうと、私は思います。

伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。

それじゃあ、畑さん、どうぞ。

畑恵 若干、お話が海洋国家という視点からずれるかもしれませんが、今、遠藤先生から人口問題と言いましょうか、むしろ労働問題に関してご指摘がございましたので発言させていただきます。

 

 

 

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