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じゃあ、それに対する日本の体制というのは、この間、自民党の山崎拓さんが産経新聞でお書きになったんですけれども、日本のほうが、それに対応できる体制ができているかどうか。安全保障にしても、外交にしても、関心が低下しているぞというようなことを強調されていたんで、そうした意味で、外に開かれた国益を目指す外に開かれた国家という理想がどれぐらい達成できるのかなと、困難じゃないかといつも思っているものですから、開かれた新しい海洋国家に日本が今なれるムードにあるのかどうかというのを楽観していいのか悲観していいのか。僕はちょっと悲観的なんですけれども。

伊藤憲一(議長) どうもありがとうございました。

それじゃあ、いろいろパネリストからコメントが出ましたので、基調報告なさっていただいた森本さん、石井さんから、その後のご感想のようなものを伺いたいと思いますが。

まず、森本さん、いかがでしょうか。

森本哲郎 海洋国家が今までの世界史を大きく変える力になってきたという話を先ほど申し上げました。その海洋国家の中でもいろいろ性格がありますが、例えば、クレタ島を中心とするミノア文明が、随分古い時代の話でありますけれども、ひとつのモデルとして考えられるのではないかということを申し上げました。

もう一つ、ここで強調しておきたいのは、おなじ海洋民族でも、陸にほとんど関心を持たない民族と、海洋と同時に海洋を利用して陸を志向する民族という2つのタイプがあるということです。前者はカルタゴでありまして、カルタゴはほとんど陸に関心を寄せませんでした。本国のテュロスというのは、ただの岩だらけの小さな島でありまして、言ってみればマンハッタンみたいなものです。ですから、アフリカ沿岸をイベリア半島まで行ったり、ブリタニアに行ったりして、あれだけ広域に手を広げながら、ほとんど陸地に展望を持ちませんでした。

私はカルタゴの遺跡を回りましたが、どの地点も信じられないくらい狭い、わずかな土地です。例えば彼らが最も重視したシチリア島の土地さえ、ほんの波止場ぐらいしかない有様なんですね。それを見ても、彼らがほとんど陸地に興味を持っていなかったことがよくわかります。ミノアのクレタ島もそうです。これはなかなか興味ある点で、彼ら海洋民族には、陸的な国家の帝国主義的な感覚がまったくなかったんじゃないかと思われます。かといって、それじゃあ、海洋国家はみなそうなのかというと、けっして同じではないわけで、例えば後年になりますとスペイン、ポルトガルにしても、陸地に偉大な関心を抱く。

 

 

 

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