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例えば、森本先生の話にも出てきました、カルタゴが絶滅した後、ローマが排他的に支配していた地中海。これは先生も言われましたように、ローマはもともと陸軍国で、地中海を内海にしてそこは陸軍が守っていたんですね。それで、そのような時期の地中海というのは閉鎖的、あるいは排他的なパラダイムの海洋世界と呼べますし、またその同じころ、地球の反対側のシナ海からインド洋にかけて、アラブと東アジアの通商の舞台となっていた、もう一つの海洋世界があって、「海のシルクロード」などと呼ばれますけれども、このような海洋世界は「トランスナショナルなパラダイムの海洋世界」と表現できます。それらの海洋世界というのは、スペインとポルトガルによる大航海時代の到来で、発見と占有の海洋世界へとパラダイムシフトするわけですね。その世界もまた、オランダに次いだイギリスの支配によって、「自由の海洋世界」になって、その自由の海洋世界の中で、いわゆるマハンが言ったようなシーパワーを用いて国家が繁栄してきたわけです。

自由の海洋世界というのは、実は今も続いているのですが、冷戦の時代には一時的に、「パワーバランスの海洋世界」が出現しました。冷戦が終わって、今は複雑系というか、マルチな面を持った海洋世界に様相が変化していると思います。振り返ってみますと、それぞれの海洋世界をリードするシーパワーを持った国家が世界秩序、あるいは地域秩序を形成して、安全と繁栄をもたらしてきたのだと思います。

海洋世界をリードするシーパワーといいましても、シーパワーというのは決して海軍力だけではなくて、国家が海洋を利用できるすべての力です。マハンの書物が日本語訳になったときに、『海上権力史論』と訳されて、どうしても海軍力というものがイメージされてしまうのですが。

今の海洋世界を見ますと、海上交通がボーダーレス化している、あるいは資源環境へのグローバルな取り組みの必要性の実態が高まっていて、今、海洋国家となるためには、そのような新しい海洋世界をリードするシーパワーを持つことが必要だと思います。

じゃあ、どのようなシーパワーが必要なのかということですけれども、その前に、その前提として、日本は果たして海洋国家であるのか、あるいはあったのかということが話題になるでしょう。森本先生は海岸国家と言われますが、私は、この東アジアを見ますと、中国は典型的な大陸国家で、朝鮮、韓国は典型的な半島国家、日本は島国と海洋国家の間で揺れ動く国家であったと思っております。これら3国にロシアと欧米の諸国が絡んできて、東アジアの歴史が動いてきたと思っています。

 

 

 

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