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世界史をふり返ると、歴史を動かした勢力にはバイキングもある。また、イベリア半島まで到達したイスラム勢力もある。しかし、最後に一言、インド洋貿易についてふれておきたいと思います。スペイン、ポルトガルの大航海時代以前に、インド洋を中心とした通商ネットワークがありました。それを担ったのがインド人であり、アラビア人であり、そして中国人でした。

先ほどの世界の民族を海の民と陸の民とに分けましたが、例えばロシアは陸の民と言っていいでしょう。中国もそうです。中国は一時海の民になりかけて、明の時代に鄭和は大船団をひきいてアフリカまで行っているのですが、やがて明王朝は造船を禁止し、陸の国に戻ってしまったといういきさつがあります。このように、ある国は常に陸志向、ある国は海志向という基本的な性格があります。そして、海を志向した民族が、いつも世界の歴史を大きく変えてきた。

では、日本の今後の海洋国家の構想というのはどうあるべきなのでしょう。現代はもう空の時代だ、字宙の時代だと思われているようですが、しかし、我々は依然として地球に住んでいるのです。そうである以上、水が4分の3を占めるこの惑星・地球を、どのように豊かで平和な惑星にしていくかというモデルを我々は海洋に視線を向けて考えていかなければなりません。海洋には、これからは海底資源の問題もあります。メタンハイドレートなども今後大きな問題になってくると思いますし、海底油田もありましょう。資源だけではなく、海上輸送というような課題もあります。また、海底電線によるコミュニケーションの場としても大いに検討されるべきでしょう。この問題については、後ほど石井さんがお話しになると思いますが、そういうありとあらゆる面からいって、私はこれまでのような海軍力という軍事的な面より、もっと視線を新たにした「海洋力」という視線というものを、日本民族はもっともっと持つべきではないかと考えます。そして、その際、頭に描くべきものは、最初にお話ししたミノア文明のような平和な、しかも通商で共存共栄を図り、海をコミュニケーションの場とし、公易の庭とし、各民族が互いに共存共栄していく、一つの惑星に仕立てていくことだと思います。そして、そのために島国である日本は何かしらの役割を演じていかなければならない。そのためには、今まで海岸民族であった我々が、改めて、新たな海洋力、海洋の役割というものに目を向けていかなければならないのではなかろうか。私はその面から世界史を読み直していただけたらと、そういうふうに願っております。

 

 

 

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