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私はこのクレタ島が、そのまま日本に重なっているように思えてなりませんでした。クレタ島の中には、各地にいろいろな豪族のような勢力がたくさんありました。しかし、戦争をした形跡が全くありません。それからまたキクラデス諸島、例えばサントリニ島であるとか、他の島々との交流がたくさんありましたが、それらの島々と争ったり、あるいは朝貢をさせたりするといったような気配も全くない、ということを考えますと、今後の日本のシミュレーションというもののモデルというものが、このミノア文明にあるんではないかとさえ思われるわけです。

やがてミノア文明は、対岸のミケーネ人の侵略といいますか、彼らがだんだん浸透してくることによって、やがて滅び去ってしまう。そして、ミケーネ文明へと変わっていくのですが、このミケーネ人というのは、好戦的な民族で、その進出によりミノア文明を摂取しながら、ギリシア文明の素地をつくっていくわけです。

当然、ギリシア文明は海洋文明であり、すべて海によってエーゲ世界の中心的な勢力にのし上がっていく。

さきのカール・シュミットは、地球というのは4分の3が海なのだから「地球」というより「水球(ゼー・バル)」と称すべきだ、と言っています。そして、その海というものを全く無視したところに、これまでの歴史観の欠陥があった、と指摘しているんですね。確かに言われるとおり、世界の節目節目には、すべて海が主舞台になっています。

まず海洋民族として挙げられるのは、何といってもフェニキア人でありましょう。フェニキア人の“本国”はテュロスとか、シドン、ビブロス、ベリトス(ベイルート)など今の中東、パレスチナー帯の海岸やあちこちに点在する都市国家群でした。その中心都市がテュロスでしたが、やがてそのテュロスに内紛が起こって、その一族が北アフリカに新しく国を建設します。それがカルタゴになるわけです。

このフェニキア人都市国家は海に面した細長い地域で、すぐ後ろにレバノン山脈が迫っています。そこには良質のレバノン杉がたくさんあり、そこで彼らはその木材を使って造船技術を発達させました。船がどんどんできるということになれば、当然、船を操る技術が進歩します。そこで彼らは海へ乗り出し、たちまち地中海の主人になっていきました。地中海岸のあちこちに経済基地を設け、こうして貿易を独占することになるわけですね。

 

 

 

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