伊藤憲一(議長) ということで、よろしくお願いいたします。
それでは、最初の基調報告者、文明評論家・森本哲郎さんをご紹介いたしたいと思います。テーマは「海洋民族の歴史から何を学ぶか」です。それでは、よろしくお願いいたします。
2. 基調報告:森本哲郎 文明評論家
森本哲郎 私のきょうお話ししたいのは、お手元にあります『海洋国家日本の構想:世界秩序と地域秩序』の中の最初に私の報告として出ております。それをほんとうに駆け足でお話しするということになってしまうと思います。
日本は海洋国家であるのか、日本民族は海洋民族であるのかという一番最初の問題でありますけれども、端的に申しまして、日本は島国でありながら、海洋民族とは言い切れないところがあるのではないか、むしろ海岸民族、海岸をあまり離れたがらない民族だったような気がします。
その理由はいろいろ考えられますが、私がそれを痛感したのは、壇の浦に立ったときです。あのときに、源平の最後の合戦で平家は全滅してしまった。平家はかなりの船も持っており、瀬戸の水軍も味方につけていたわけですから、とりあえず外洋へ逃げて、朝鮮半島とか、中国大陸まで行き、そこで勢力をたて直し、中国、あるいは朝鮮半島の諸民族の援助を受けて、再び船団を組み逆襲するということも十分できたのではなかろうか。にもかかわらず、そのようなことを考えず、もうダメだと観念してしまい、海中にみんな沈んでしまった。それが私には不思議でならない。この一事をしても、日本人が海洋民族でなかった証拠になるのではなかろうかという気がしてならないのです。
それはともかく、これからお話ししたいのは、日本が今後、海洋国家というものをどういう観点から見ていくか、ということです。これまで、歴史家は、陸の視点にばかりとらわれておって、海からの視点が全く欠落していた、最近そういう論調が強まっておりますが、それを最初に言い出したのは、実はドイツの政治学者カール・シュミットです。彼は『ラント・ウント・メール』、つまり『陸と海』という著作の中で、世界史は、常に海を舞台としてきた、そして海を制する者が世界を制してきたということを、いろいろな例証を挙げて、大変示唆に富む指摘をしています。