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そして、こういう非西欧の国々は、イコール西欧化でない近代化を望んでいるのではないか。アイデンティティの「非欧米で最初にかつ自力で近代化した日本」というのは、こういう南の国々のアスピレーションにこたえるのに一番最適な位置にあるのではないかと思います。

「海洋国家」をめぐる以前の議論の中で北岡教授が、南北間の貧富の差を平和的に解決するためには、南の自力による発展が不可欠である、日本は先進国の圧力の中で自力で発展してきた貴重なモデルであるという発言をされております。

ブレジンスキーは、日本は地域大国になるのではなくて、世界が直面するグローバルな問題に取り組む、彼の言葉で言うと「国際大国」になるべきであると言っておりますが、世界が直面するグローバルの問題の中に、まさに南北問題が重要な問題として入っているわけであります。冷戦後、他の先進国のODAへの関心が低下しているだけに、日本の役割は非常に大きいのではないか。国民的な目標として、日本を国づくりの先達と思っている多くの南の国々を支援することが、日本のやるべきことではないか。それはまた、日本が世界秩序の安定に貢献する道でもあるのではないかと考えております。

次に、世界的な秩序のレベルで日本が何をなすべきかという点について言いますと、超近代文明への貢献というのがあるのではないかと思います。超近代というのは、伊藤理事長が『超近代の衝撃』という名著の中で近代を超える文明の意味で使われておりますが、今や我々の近代文明は行き詰まっている。核兵器の開発であるとか、環境の破壊であるとか、資源の浪費がもたらされている。あるいは今の近代文明のシステムでは、民族と国家の壁が越えられない。論理思考とか専門文化の壁も越えられない。したがって、人類がこれから生きていくためには、近代を超える文明への移行が必須ではないか。世界は今やそういう段階に差しかかりつつあるのではないか。そういう見方が次第に有力になっております。

これから生まれてくる文明ですから、いろいろ分からない点もありますけれども、新しい文明の特色として通常指摘されているのは、異端や多様性に寛容な諸文明の共生などで、真の意味での世界文明になるであろう、あるいは、そうした文明であるべきであるということであります。別の見方で言えば、軍事力や富が支配する今までの文明にかわって、知的影響力、つまり他の人や他の国に影響を与えるのに、最初は軍事力、その次は富の力であったのが、新しい文明では知的な影響力が重要なツールになる、いわば知識文明になるという見方もあります。

 

 

 

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