これも後で触れますけれども、日本はそういう自らの近代化の経験から世界に貢献ができるのではないかというふうに考えております。
それでは、以上の日本のアイデンティティを踏まえて、日本は何をなすべきかを世界秩序レベルと地域秩序レベル、日本にとっての地域秩序レベルというのは東アジアですけれども、二つのレベルで考えてみたいと思います。
まず、世界秩序レベルで日本がなすべきは、南北問題解決への寄与ということだと思います。南北問題と聞かれますと、今さら何かというご感想をお持ちかもしれませんが、改めてこの問題を取り上げるのは、実は21世紀を迎えるに当たって、南北問題をめぐる状況が非常に大きな変化に直面しているからであります。まず第1は、冷戦が終結したことです。冷戦中、西側のすべてのODAが冷戦の戦略から行われてきたわけではありません。特に日本のODAはそういう戦略援助という色彩がかなり薄かった。しかし、冷戦がODAにとって非常な重要な要素であったことは疑いのないところで、事実、冷戦が終わりましてから、世界の年間のODAの額が、それまで500億台だったのが、約2割減って400億ドル台になった。冷戦の終結だけが減った原因ではありませんが、1つの大きな原因であることは間違いないと思います。
南北問題をめぐる状況の第2の大きな変化は、グローバリゼーションの進行ではないかと思います。もちろんこれまでも開発に成功した国と取り残された国の差はあったわけでありますが、グローバリゼーションはそれに拍車をかけている感じがある。いわゆるマージナライズされた、あるいはされつつある国が増えている。グローバリゼーションのインパクトは非常に大きいもので、私はアジア危機のときにタイにおりましたけれども、開発の優等生と言われるようなタイ、インドネシア、韓国が、これは金融面のグローバリゼーションですけれども、軒並みやられたというほどのインパクトを持っているわけであります。
グローバリゼーションでは、本来は世界の市場が1つになるはずでありますけれども、南北問題という観点から見ると、むしろ貧富の差が広がっている、世界が分断されつつあるということが言えるのではないか。地域紛争とか、原理主義の台頭とか、テロの横行とか、すべてが貧困が唯一の原因ではないですけれども、こういう問題が出てきて、安定的な世界秩序の構築が脅かされているということが言えると思います。
先ほど申しましたように近代化は、南の国のアスピレーションであります。イランのように一時、近代化に背を向けて原理主義でやろうとした国ですら、今は再び近代化への道に戻っている。