2. セミナー「海洋国家日本:その文明と戦略」
(「海洋国家セミナー」)
―その趣旨、概要、計画―
2000年5月12日
[財]日本国際フォーラム
I:趣旨
冷戦が終焉し、21世紀を目前に控えた今日、世界はその政治経済構造の再編成が進行するなかで、近代文明そのもののレゾンデートルの再検討も含めて、新秩序の形成を模索している。日本もまたこの激変の過程の一部を成しており、この試練をくぐり抜けることなくして、その未来を切り開くことはできない。
いまから30年前、当時少壮の国際政治学者であった高坂正堯は、その著『海洋国家日本の構想』のなかで、日本は西洋の一部でもないが、東洋の一部でもなく、そのゆえにアイデンティティ喪失に悩むのであるが、その悩みは太平洋戦争に敗れて、アメリカに依存し、アメリカ化しようとするなかで一時期忘れ去られていたものの、やがて中国が台頭してくるにつれ、ふたたび東洋と西洋の間に立つ国としてのアンビバレンスに直面せざるをえないであろうと予言したが、それはまさに今日のわれわれに改めて突きつけられている日本と日本人にとってのピレニアルな問題であるといわざるをえない。
アメリカの力が後退し、中国の力が台頭してくるなかで、日本は対米従属か、しからざれば対中従属かというジレンマに追い込まれる恐れがあり、それを逃れる道は日本が自らの力を強めるほかはなく、自らの力を強めるためには、西洋(アメリカ)でも東洋(中国)でもない日本の独自のアイデンティティを確認し、その基盤のうえに国民的目標を樹立する必要がある。
西洋か東洋かという文明的選択の文脈でみれば、人類の歴史をつうじて異文明間のコミュニケーションの最有力の手段は、つねに海であったことに注目せざるをえない。異文明間の交流と連関のなかでまず地中海世界が誕生した必然性はここにある。しかし、海はコミュニケーションの手段になると同時に、隔離の手段にもなる。この点、日本は古来四面環海の国といわれながら、その海は日本を世界とつなぐと同時に、日本を世界から隔離するものでもあった。