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第3部 巻末資料

 

1. 問題提起レジメ(森本哲郎メンバー)

「世界海洋民族の海洋進出の歴史から何を学ぶか」

 

森本哲郎

 

ドイツの政治学者カール・シュミットは『陸と海』という著書に「世界史の一考察」というサブタイトルをつけている。これからもわかるように、彼は従来の歴史の視点が、陸に限定されていることを問題にし、海から世界史を考え直すべきだ、と主張した。というのも、地球は四分の三が海で、陸地はわずか四分の一に過ぎないからである。そこで、彼は「地球(エルデ)」という呼び方は当たっておらず、「海球(ゼーバル)」と呼ぶべきだとさえ述べている。

たしかに歴史をふりかえると、この地球上の地図を塗り替えてきたのは「陸」というより「海」であった。遠くはフェニキアにはじまり、8世紀末、ヴァイキングの四大陸にまたがる足跡…その活動はどれほどヨーロッパを震撼させたことか。さらにはベネチアの繁栄、イスラム、インド、中国商人の活躍、そして15、16世紀の大航海時代を現出させたスペイン、ポルトガル。近代では島国のイギリスが七つの海を征して世界帝国にのしあがっている。それは、日本流にいうならば、世界史は「海彦」が「山彦」を征服していく過程であり、『聖書』のたとえを用いるなら、海獣「リヴァイアサン」が陸の怪獣「ビヒモス」に打ち勝つ物語とも言えよう。

そう見てくると、海がいかに世界史の重要なモメントであるか、あらためて思い知らされる。21世紀を前にした現代の世界をこの視点からとらえると、私たちは、もう一度“海の力”を見直す必要があるのではなかろうか。ことに極東の島国である日本は海の機能を無視しては生きていけまい。

近代に至るまで、海は外国からの“防壁”としてこの国を利してきた。が、明治以降は反対に、海を発展の舞台として歴史を動かそうとした。だが、これからの日本は、もっと、さまざまな角度から海の機能を考えていく必要がある。いうまでもなく、海は想像を越えるほどのエネルギーの宝庫である。それをどのように利用しうるかに、将来の世界の運命がかかっているといっても過言ではない。海洋資源はもとより、潮流を利用したエネルギーの利用、海上輸送のさらなる革命…といった手段によって、今後の世界はいよいよ大きく変わっていくだろう。海洋国家といわれる日本は世界に率先して、海を拓く技術に磨きをかけるべきではないかと思う。

以下、海と陸との関わり合いを世界史的に、いろいろと指摘してみたい。

 

 

 

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