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結局、海上覇権国というのは陸上覇権国とは違った条件の中で生きているのであり、そのゆえに違った戦略を持たなければならない。しばしば陸上覇権国というのは、オスマントルコにせよ、ナポレオンにせよ、ドイツにせよ、ソ連にせよ、自分の国一国の力だけをたよりにして、しかも直接の力、むき出しの力によって、自国だけの利益を追求するという路線をとりがちです。これは戦略論では「直接戦略」と言っていますが、そういう戦略だったと思うんですが、これに対して海上覇権国というのは、やはりまず第一に同盟国を持たなければいけない。そして、その同盟国をリードするリーダーシップを持たなければいけない。これは「間接接近」の戦略論と言いますけれども、例えばイギリスなどは意識的に「イギリスの覇権を疎ましく思い、あるいは嫉妬する国がないはずはない。しかし、どこの国もイギリス以外の国に覇権を握らせるくらいなら、まだイギリスに握らせておいたほうがましだと思えるような、したがって、その限度において自分のことだけじゃなく世界全体のことを考えた戦略をとるならば、イギリスの覇権は永続するであろう」という戦略を採用し、その結果として、自由貿易政策とか中小国の独立擁護とかの政策をとっています。それが最終的にパックス・ブリタニカが長続きし、ドイツの2度にわたる挑戦が失敗した一番本質的な理由だと、私は思っています。冷戦期におけるアメリカとソ連の違いもそういうことじゃなかったかなという気がするわけです。

そうすると、海洋国家として運命づけられている日本の将来のことを考えると、これはどなたかもおっしゃいましたが、極東、東アジアというセアターというか、リージョンで考えると、中国との関係をどうするかという問題はもう避けられないわけです。そのとき中国は大陸国家であるわけで、これに対する海洋国家日本というのは、やはりまず第一に友人や味方、つまり同盟をもっている国であり、そして第二に自分の国のことしか考えないという利己的な国――エコノミック・アニマル的あるいは一国平和主義的な生き方の国――じゃなくて、みんなのためになるような世界秩序、地域秩序をつくるのに積極的に参加する国、そういう国にならなければならないわけで、それが海洋国家日本というものが21世紀において成り立つかどうかの、私は、鍵じゃないかなと思うわけです。きょう森本さんのフェニキアからアメリカまでの海洋国家興亡のお話を伺っていて、そんなことを感じました。

本日の第1回自由討論は、本年度のテーマの方向のようなものを、私どものねらいどおり皆様のディスカッションによって浮き彫りさせていただいたんじゃないかと思います。次回は石井さんに問題提起をお願いして、情報革命時代あるいは21世紀の新しい科学技術の環境の中で、海洋の問題とその可能性を改めて考え直す機会を得たいと思います。

本日は森本さん、どうもありがとうございました。

 

〔文責事務局〕

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