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それでは、櫻田さん、いかがでしょうか。

櫻田淳 櫻田でございます。

私が海洋国家あるいは大陸国家という言葉に持つイメージというのは、象徴的なものであります。「海洋国家」は、「ハイリスク・ハイリターン」型の人々の生き方を是とする国を象徴し、「大陸国家」は、「ローリスク・ローリターン」型の人々の生き方を是とする国を象徴するということです。陸の上ならば、種を蒔いて草を刈って収穫するというように、決められた通りに行うというスタイルで生活を維持できます。しかし、海の上ならば、網を海中に入れたからといって確実に魚が獲れるわけではないし、嵐に巻き込まれれば命を落とすこともあります。そういう意味では、リスクは高いのですが、魚群を捕まえれば挙に「大漁」ということもあるわけです。

この考え方からすると、戦後の日本は「大陸国家」型の色彩が強かったのではないかと思われます。たとえば、「一流の大学・一流の会社」という風潮は、私には、「ローリスク・ローリターン」型の生き方を奨励していたように思います。一流の大学を出て、一流の会社に入ってしまえば、余程の間違いを犯さなければ定年までは生活が保障される。こういう発想は、「上昇志向」というよりは、「安定志向」というべきものです。戦後の日本では、リスクを背負う生き方というのは歓迎されなかったのです。これが「海洋国家」型ならば、一発大きいのを狙ってやろうという気概を称揚するのかもしれませんが、実際はそうならなかったわけです。

この十年は、日本にとって試練の時期であったかもしれませんが、私は、新たな可能性を見ているところです。はっきりいえば、終身雇用や年功序列型賃金といったものに支えられた「大陸国家」型メンタリティーは遂に崩れて、「海洋国家」型のメンタリティーが前面に出始めてきているのではないかということです。象徴的なのは、たとえば野茂英雄とか中田英寿といった人々かな。彼らは、自らリスクを背負って活躍の場を海外に求めたわけです。

私は、これからの日本の国際戦略で大事なことは、この野茂英雄型、中田英寿型の人材を養成し、どしどし世界に出していくことだと思っています。日本が「海洋国家」というならば、それに相応しい「ハイリスク・ハイリターン」志向の人材を揃えていくことが、大事だということであります。変転極まりない「海」という空間に乗り出すに十分な「進取の気性」、「強靭な精神」を人々が身に付けるための「枠組」が、求められているのです。

 

 

 

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