そして、彼らは、「海」を象徴する海獣を「リヴァイアサン」、そして「陸」を象徴する怪獣を「ビヒモス」と呼びました。リヴァイアサンはクジラのようなもの、陸のビヒモスは、象や、雄牛のようなものをイメージしていたと思います。カバラ学者たちは、この海と陸の怪獣の一騎打ち、それが世界史なんだ、と唱えていたわけです。
カール・シュミットは、ここからヒントを得ました。そこで改めて世界史を検討してみると、まことにそのとおりだ、と。そして、彼は、大航海時代のポルトガル、スペイン、その後のオランダ、イギリス、と、いずれも海を制覇した国々が世界の最強国にのし上がっていく過程を分析しています。
この『海と陸』というシュミットの著書は、ごく短い論文、小冊子のようなものなんですが、たいへん示唆に富む本で、私は非常に感銘を受けたものでした。そこで、私もシュミットにならい、私なりに、海からの視点を頭にいれながら考えてみたのですが、確かに、そのとおりなんですね。
シュミットは古代にまで言及してはおりませんが、最初に海を舞台にした民族といえば、何と言ってもフェニキア人です。彼らの本拠地は現在のレバノンの地。すぐ後ろにはレバノン山脈が迫り、ここから得られる良質な材木―レバノン杉が、フェニキア人の造船の材料になりました。
フェニキアといっても、近代国家のような国ではなく、いろいろな都市国家の連合のようなものです。その中で、とくに強大だったのはチュロスという都市でした。フェニキア人は自分たちの造船技術、航行術を駆使して、地中海を思う存分動き回り、貿易などで大いに活躍したわけです。やがて、そうした交易活動の拠点として、地中海沿岸の各地に植民市を拓くことになります。たとえばマルセイユ。これはその昔、マッシリアと呼ばれたフェニキアの植民市でした。スペインの西の端のカディスも、そうです。アフリカの地中海沿岸に目を転じれば、現在のチュニジアの首都、チュニスがそうですね。この植民市が、後年、母国から独立して、カルタゴと呼ばれる国になりました。
カルタゴが建設されたのは紀元前800年前後。まことに地の利を得た、貿易立国としてふさわしい土地でした。もともとはチュロスの植民市だったんですが、自分たちの商売があまりに儲かったために、だんだん本国へ送金するなんてバカバカしい、と思うようになった。