日本財団 図書館


江戸時代の日本の鎖国は全部悪いことばかりだったわけではないわけで、その間に日本の固有の文化や文明が開花したという面もあるわけでございますから、もちろん肯定的に評価しなければならない面もあるわけですが、江戸時代の直前、日本人というのは南洋の日本人町であるとか、八幡船であるとか、ほんとうに「海洋国家」として世界の海に進出していったわけでございますが、それが鎖国のあとはすっかり国の中に引きこもってしまい、幕藩体制300年の眠りについたわけでございます。

このころイギリスはビクトリア女王の時代で、まさに世界に雄飛して、その後の大英帝国建設につながる大発展を遂げたわけで、「海洋国家」の典型であったと言ってよいのではないかと思うわけでございます。日本は明治維新後「これじゃいけない」ということで、福沢諭吉の「脱亜入欧」論ではございませんが、世界に学び、世界に足がかりを築き、世界に進出しようとしたわけでございますが、結果は太平洋戦争という形で大きな挫折の中に終わるわけでございます。

戦後日本の高度経済成長に代表される発展ぶりというのは、ある意味で日本の3回目の「海洋国家」への試みであったと言ってよいかと思うのでございます。この背後にはアメリカとの海洋同盟というものがあったわけでございますが、この日米海洋同盟を背景として日本は世界市場に進出し、GNP世界第2位の地位まで築いたわけでございますが、その結果がほんとうに日本を「海洋国家」にしたのであろうかという点がまさに問われているのが、バブル崩壊後の今日の日本の現状ではないか。西側陣営の一員として認知され、世界にこれだけ受け入れられ、また1人当たり3万ドルを超えるパーキャピタ・インカムの国づくりに成功したと言いながら、しかし日本人のものの考え方を見ると、やはり依然として世界と日本のかかわり方について、適切な判断力が形成されていないのではないか。ひとりよがりの国民的気質が、一国繁栄主義、一国平和主義といわれるように残っているのではないか。

例えば冷戦後の世界の最大の問題は地域紛争が頻発しているということであり、このために国連を中心として世界は、あるいは多国籍軍あるいはPKOという形で、各国が力を出し合って何とか平和を維持しようという試みがなされているわけですが、日本は憲法9条の制約を盾にとって「日本だけは特別である」という態度をとっているわけでございますが、そして、お金だけは出すということで湾岸戦争のときも130億ドルという大金を拠出して、そして、世界から冷笑を買ったわけでございますが、こういう日本を見ると、やはりもう一段の「海洋国家」化というのが、そして、それこそが本格的な日本の「海洋国家」へのステップでなければならないようなものが、21世紀の日本の歩みにおいて期待されているのではないか。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION