それで、日本丸というこの日本国民を乗せた運命共同体が、いかなる英知と戦略を持って21世紀の大海原に進んでいくべきか、ということを最終的には浮き彫りにしたいという問題意識で、初年度においては、まず「日本のアイデンティティ」というところから出発したわけでございます。これはやはり自分の現在位置がわからなければ進むべき方向もわからないというのは論理の当然でございまして、日本あるいは日本人というのは一体何者なのか、この世界地図の中における位置づけを求める議論をまずやってみたわけでございます。
1年間にわたる議論の中で、日本は明治維新以来近代化という名のもとに、戦前であればヨーロッパ、戦後であればアメリカの後を追って、そのまねを一生懸命してきたわけですが、結局はヨーロッパ人にも、アメリカ人にもなれなかったし、またならなかった。じゃ、他方、しかし、それではアジアに我々の帰ってくるふるさとはあるのかというと、どうも中国文明あるいはインド文明などをとってみても我々のふるさとではないということで、やはり「日本のアイデンティティ」というのはアメリカとか中国とかに求めるのではなくて、自分自身の中にそのユニークな存在の原点があるということを確認し、踏まえるべきだということになったわけであります。
また、アイデンティティというものについても過去の伝統によって固まったものとして与えられているのではなく、危機の中で未来を模索するときにその努力の過程でみずからつくり出すものでもある。こういう認識が1年目においてこの討論に参加した方々の間から何となくコンセンサスとして形成されたわけでございます。それがこの本『日本のアイデンティティ』に書いてあることでございます。
それを受けまして昨年1年間行なわれました「21世紀日本の大戦略」の議論といたしましては、では、そのような日本は世界とどのようなかかわり方をするべきであるのか、この点が議論の中心的なテーマになったわけでございます。「島国から海洋国家へ」というのが最終的な議論の方向でございましたが、ここで意味している「島国」という言葉と「海洋国家」という言葉は対照的に使われておりまして、「島国」という言葉には「インシュラー」という英語もそうでございますが、「内向きで、自分たちの狭い世界に閉じこもって、ひとりよがりになる」というイメージがございます。