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例えばメーカー側の論理で申しますと、これは私どもにもよくコンサルティングの引き合いがまいりますが、設備を保有している工場の場合には、それぞれの工場ごとに生産目標等を設置することが多く、それぞれの工場ごとの採算ラインというのを持っているわけでございます。当然、固定費部分を越えて稼働率が高まらないと、工場の収益がプラスにならないわけですから、とにかく彼らの最適行動といたしましては、設備の稼働率をいかに最大化するか、といったことが行動原理になるわけです。ただ、これは工場側の論理からすればもっともなご議論なのですが、作りすぎによる余剰在庫の増大といったものを発生させる、そういったリスクが内在しております。

一方、物流部門にとってみれば、これは物流の専業企業の場合もあれば、会社の中の物流部門ということでもよろしいのですが、とにかく倉庫における余剰在庫を、出来るだけ削減するとか、あるいは配送センター、ディストリビューションセンターへの配達時に出来るだけコストを削減するように行動しろ。例えば大ロット輸送によって、長距離輸送のコスト削減を図る、ということも当然起こり得ます。それで、例えば昨年に比べまして商品当たりの輸送コストが何円何十銭削減できた、あるいは今年はさらに何十銭削減する、といったことを皆様方は目標に立てるわけでございます。確かに、物流部門についてはコストの削減によって目標を達成したとしても、例えば大ロット輸送を標榜したことによって、過剰に、その次の段階で流通在庫が膨らんでしまう、というようなこともありうるわけでございます。

同様に小売部門につきましても、とにかく売上の最大化を目指すということで、いかにマーケティングを充実するか、あるいはいかに有能な営業マンの教育徹底を図るかといったことで、売上をあげていこうとされますが、販売機会のロスといったものを出来るだけ抑えることが売上の拡大につながるという行動をとりますと、それが結果として販売機会ロスを大幅に上回る過剰在庫になってしまうということもありうるわけでございます。

そしてこれら3つを並べてみたときに、果たして個々の部分最適がトータルとしての最適になっているかと申しますと、先ほども申しましたようにイコールにはならないということが、大きなポイントであると考えております。

このように教科書で教えるサプライチェーンマネジメントと実際の現場での行動原理は、なかなかうまくかみ合わないといったことが指摘されております。ですから、例えば私ども、あるいは大学の先生が企業のコンサルティングに入りましても、「あなた方は現場を知らない」ということで一蹴される場合もございますし、あるいは「難しすぎて、言っていることがわからない」というようなお話になるわけでございます。

このようにいろいろな問題を含んでいるわけでございますが、ただ少なくとも10年前、あるいは5年前と比べて全体最適が出来る環境が確実に整いつつあるというのが私どもの基本的な考え方でございます。それがIT革命です。

 

 

 

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