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資本主義の発展の、一番最初の時期を是非思いうかべていただきたいんですが、一番最初はやはり蒸気機関であったわけですね。蒸気機関というのは工場の中のスピード、生産のスピードを上げると同時に、蒸気を活用した鉄道と船、これによって大量輸送が出来るようになった。しかも、非常に早いスピードで輸送が出来るようになったということが、生産のシステム、流通のシステムを大きく変えていったわけであります。

だから、経済学ではよく、規模の経済性、大規模生産の利益という話をよくするんですが、大規模に生産するということは、実は大規模に配送しなければなりません。どうしてもマーケットというのは、大規模なマーケットを求めるということになりますと広いエリアに配送するということが必要になるわけでありまして、広いエリアに配送するシステムがない時代には大規模生産は出来ない。大規模生産が出来ないということは大企業が出来ない。大企業が出来ないということは株式市場というものも必要でないということになってくるわけでありまして、物流のシステムがない所で資本主義的生産、資本主義そのものはおこらないというわけであります。

ところが、私たちが学んできた経済学には空間というものがほとんど取り上げられることがないわけですね。経済学のテキストをみていても「アスクル」の話が出てくることもなければ、フェデックスだとかクロネコヤマトの話が出てくることもない。鉄道会社、あるいは航空会社のことも出てこない。港湾も空港も道路の話も何にも出てこない。何かミクロの経済企業がありまして、限界費用と平均費用で価格を調整してるんだという、あるいは独占的な価格設定がどうだとか、そういう話ばかりが出てくるわけでありますが。

資本主義の一番の根元にあるのは、実は物流、流通のシステムがどうハイモビリティ、速くなるのか、大量に運べるのか、安全に運べるのかということにかかっているということなんです。

実はそれだけではなくてですね、物を確かに速く、安全に大量に運ぶということが前提なんですが、その産業そのものが実は資本主義の中心的な産業になるということなんです。簡単にいってしまえば、戦後の資本主義を支えた産業は、一言で言えといわれれば、自動車産業といえばいいと思うんですね。戦後の資本主義を支えた産業をひとつだけ挙げろといわれたら、やはり自動車産業というべきだと思うわけです。自動車というのは何のためにあるのか、自動車は食べるためにあるのか、自動車は着るためにあるのか、自動車は眺めて喜ぶためにあるのか。違うわけでありまして、これは移動するための物なんです。移動するというのが何かを生み出すというふうには考えにくいんだけれども、移動するということが大変人間にとって重要であるということは間違いないわけであります。

移動するためには何が必要かというと、道路が必要になるわけですね。だからケインズが不景気になれば公共事業をやればいいという、新しい混合経済体制というのをだしてくるわけでありますが、実は混合経済体制の背後にあった、公共事業によって、景気が悪くなると下支えができるんだという考え方そのものが、実は当時の自動車産業が発達するという時代背景の中から生まれたものだろうと思うわけなんですね。

実はケインズの本を読んでみますと、公共事業をやるためには穴を掘りなさい、で、掘った穴はどうするかというと掘った穴は埋めなさい。だから要するに何でもいいと、とにかく穴を掘って穴を埋めたら、そこで仕事が発生するじゃないかと、失業者が救済されるじゃないかと、所得が発生するだろうと、それがいずれ波及して経済良くなるんだという話をケインズは書いているんですけれど、これは大きな間違いであります。要するに道路を作らなくてですね、長期的な経済発展が出来るわけがないんですね。ですから、戦後の国の役割というのは基本的には、あんまり道路というと運輸省の方が多いので怒られますけれど、基本的には道路に重点が置かれた。そして自動車産業の発展がそれと連動して起こっていった。そして自動車産業というのは大変な波及効果があって、まずガソリンスタンドがいるから石油産業が発達して、大量のガラスを使うのでガラス産業が発達して、大量のゴムを使いますのでゴム産業が発達して、そして非常に危険がありますので自動車保険会社が、要するに海上火災保険がですね、非常に大きくなりました。要するにありとあらゆる部門に自動車というものを関連させながら、資本主義は成長していったということなんですね。

 

 

 

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