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(3) 生物化学的な役割

a. 窒素固定機能

サンゴ礁は貧栄養環境における窒素固定として機能している。底質における微生物や水柱におけるシアノバクターが大気中の窒素を同化する作用がなければ生産性や多様性はたぶんもっと低い。他の海洋生態系と比較して、サンゴ礁の窒素固定はかなり高い割合である。窒素固定の能力は、リーフの系自体の地域的な重要性だけでなく、リーフで固定された余剰窒素の放出に伴う隣接する深海生物群集の生産性にとっても重要である。しかしながら、島に近いリーフでは、十分な栄養が表層流や地下水として与えられる。さらに、富栄養化が多くの熱帯の沿岸域において主な問題であるために、群集が要求するという観点からの窒素固定の相対的な重要性は環礁のように隔離されたリーフにおいて大きくなっている。

b. 二酸化炭素の固定機能

サンゴ礁は地質学的な時間スケールにおいて明らかに二酸化炭素のシンク(貯蔵庫)として働いているが、人類が関与している範囲においては二酸化炭素の発生源である。しかしこの発生源としての機能は、最近の地球規模での炭素収支においては小さな現象で、最近10年間に人間活動によって放出された二酸化炭素はリーフが15,000年間に放出した量よりも多いことが推定されている。また、生物生産に関してはシンクとして機能している。

c. カルシウムバランスに関する機能

サンゴ礁における生物化学的課程は世界のカルシウムバランスに明らかな役割を演じている。リーフは、毎年海に入る1.2×1013molのほぼ半分を沈殿させる。造礁サンゴに加えて、サンゴ礁上の海藻等が炭酸カルシウムを生産する。カルシウムを結合して硬い炭酸カルシウムの外郭を形成するリーフの能力は、リーフの発達や独自性形勢の基礎である。

d. 浄化機能

サンゴ礁は人類から放出された廃物を変換したり解毒したりして浄化する役割がある。例えば、海洋環境における石油製品は微生物によって解毒され、炭水化物が二酸化炭素と水になる。

 

(4) 情報的な役割:レコーダーとしての機能

リーフ生成物はモニタリングに用いられ、汚染の記録として用いられている。リーフを形成するサンゴの骨格は、長期間の海水中の金属のレベルを示す化学的なレコーダーとして働き、海洋環境の最近の変化や人間の撹乱の影響をモニタリングするのに用いられている。

また、サンゴ礁は気候の記録としても機能する。サンゴの骨格の化学的組成は熱帯の海の表層水温の再現や塩分の変化の追跡に用いることができる。長期間生きる塊状のサンゴは、骨格の層に季節などの環境の条件によって幅や密度に変化が生じる。これらの層は、木の年輪のように数えることができ、過去の状態の指標となる。

 

 

 

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