d. 都市化地域での農産物の生産
都市化が進行する地域で生産される農作物の作付状況(平成10年度)を、東村山統計資料から参考として掲示(表II-2-4)し、この数値をもとに聞き取りした農業者のコメントを加え紹介しておく。東村山市における過去6年のデータを見ると、生産物は全体として減少の傾向にはあるが、作付け動向に際だった変化はない。東村山市に拘わらず都市化した地域の農業の現況が見て取れる。水田の減少により水稲は減少し、かつて畑において隆盛を誇っていた陸稲や小麦・大麦・ビール麦もその生産が激減している。聞き取りによれば、米穀類は販売に供することはなく、ほとんどが自分の食べ量である。また、麦作付けの第一目的は土壌の改良や住宅地への風を遮るためである。芋類の生産では、殊にさつま芋はかつて「東村山のさつま芋」として評判が高くどこの農家でも作付けをしていた。
現在はかつてほどではないが、依然として生産量は高い。数軒の農家では現在も出荷を目的として生産しているが、そのほとんどは芋掘り観光や直売で販売されるとのことである。芋類は作付け後の管理が容易であり、労働力がすくなくなった農業にも適するとも聞いた。根菜類のうち里芋・八つ頭・大和芋はデータ上では合算されているが、農業者によれば多いのは里芋であり、出荷もあるが、直売やスーパーマーケットの地元野菜産直コーナーに置いて販売することが多い。里芋は冬場の家庭料理に活用が多く、特に暮れには売れ筋の作物である。他の根菜類の人参・大根・こかぶは出荷する農家も多いが、ごぼうと共に直売またはスーパー出荷されるものも多い。大根やこかぶは春と秋の2回の作付けが可能であるが、人参・ごぼうは1回のみであるまた、人参は料理用のものが多いが、直売やスーパーの地元野菜の産直販売では健康用のジュースへの加工を目的とした消費者も多いため、ジュース用で芯まで赤く、かつ人参臭さの少ない種類を選んで作付けするという農家もあった。
果菜類はほとんどが夏野菜である。直売やスーパーマーケットの地元野菜産直コーナーに置くことが多い。葉菜類はキャベツやうどの作付けがかつてに比べ減少の傾向にあるという。キャベツは連作の影響からと値段が低価格で安定しすぎており、あまり作らなくなった。また、うどは地下むろを必要とすることと、労働力の高齢化で地下むろへのあがり下りが大変になったことや、作付け地が荒れるので、耕作地が広くあり、畑を休耕させる余裕がないと作付けは難しい。また、春の出荷時の発芽後の成長がはやく、労働力がないと集荷が追いつかない。ねぎや花野菜(ブロッコリー)は生産が比較的手間がかからないので最近多く作られるようになっている。果樹は昭和40年代から増加した。梨や梅・柿は直売が多い。栗は栗拾いなどの観光農園として実施する家も多い。植木や苗木を育てる畑も多いが、街路樹などの苗木を育てる畑も多い。最近ではブルーベリーなどの苗を育て市場出荷する家もある。
市街化地域に指定された都市化の中での農業は、必ずしも衰退の方向をたどっているとはいえない。むしろ、消費者に近い位置に生産の場があることがメリットとしてあり、直売やもぎ取りといった消費者と直接つながる農業として確実に息づいている。