・今は養蚕がなくなったから、丘陵の中の桑畑が放置されて、中には太い桑が生えていることがある。ヤマグワなんて自然のものじゃないよ。今畑にみる桑と葉っぱの形が違うけれど、桑は明治以来養蚕の大切なエサでしょ。蚕の改良と併せて桑の改良も盛んだった。何十種類という桑があったし、葉の形も木の姿もずいぶんと種類があったよ。春蚕に食べさせるためには葉が早く出る品種とか、葉の量が多い種類とか、丘陵に生えている桑の種類調べたらかなり種類があるんじゃねえかな。(所沢市山口地区)
f. 湧き水や水田と丘陵の関係
狭山丘陵と人々の暮らしは樹木そのものだけの繋がりではない。樹木が持つ保水力が生活を支えてきたし、それを無理なく活用してきた。丘陵と水田との関係も聞き取ることができた。今は少なくなった水田を作るために池をつくったことや、放置しておくことで谷田の水田は土砂で埋まってしまうことなどの話、地下水が浅いと地温が暖かいという話は印象に残った。
・昔は、我が家の庭は1mも掘れば水がわき出した。大雨の後は10日遅れぐらいで、井戸も水があふれるぐらいになった。飲み水どころか、畑への灌水など不自由することはなかった。田んぼもあったし、水は必要だった。よくダムの水がしみ出すのかなんて話があったが、こんな風にヤマが切られて住宅や工場が増えてきたら水は枯れちゃいました。とうとう壊されちゃったが山口城の所にも稚児ヶ池という池があって、あの池の水は湧き水できれいだったんですが、椿峰の方が開発されてからは、枯れてしまっている。前はあの水も下流じゃ水田に利用したって話を聞きました。あそこは城の大事な水を確保していたところなんでしょうね。ところが、もう20年位前から、池には溜まるのは雨水ぐらいで、湧き水はわかなくなりましたね。(所沢市山口地区)
・丘陵の麓は、井戸を掘っても水が枯れない。我が家の庭の井戸は5mくらいで、どこの家も渇水で井戸が枯れても、いつも水を満々とたたえている。有り難い。しかし、さつま芋のムロを掘るのには向いていない。水が出るとさつま芋は腐ってしまう。そこで丘陵から離れた台地の奥に作ってある。(東村山市廻田地区)
・丘陵に近いと井戸水が浅い。さつま芋を冬場保存するのには、普通は5m位井戸のように掘ってさらにそこから横穴を掘ってしまって置くが、ここの場合は、さといもと同じように1mぐらいの浅い溝を掘ってしまって置いても保存が出来る地下水が高いから地温が下がらない。(東村山市久米川地区)
・今は生産緑地として僅かに田んぼが残っているに過ぎず、後は埋め立てられ住宅開発が進んでしまったが、かつては中藤田んぼといって、このあたりじゃ広い田んぼ地帯でした。今は三面貼りのコンクリート護岸になってしまっているが、入谷川から田んぼに水を引きました。入谷川は狭山丘陵を水源に持つ川ですが、狭山丘陵は水が少ないので、丘陵の水源には番太池という池が作られていて、そこに湧き水を貯めておくんです。田んぼの水はそれを利用しました。(武蔵村山市中藤地区)