即ち、ピストンに油圧がかかり、摩擦板とスチールプレートを摩擦板受板に圧着する。摩擦板およびスチールプレートには、それぞれ外周又は内周に歯型の溝が切ってあり、また同様に駆動歯車軸外周およびクラッチ箱の円筒内周面上にもそれぞれ歯形溝が切られているのでこれらが互いに噛合い、軸方向に移動しながら圧着によって回転方向へ力が伝わる。この部分の機構関係は前掲の「機械式多板クラッチ」と同様である(但し油圧式クラッチには後進用の制動帯というものはない)。
次に、油圧が解放されると、油圧ピストン戻しばねにより油圧ピストンが押し戻され、摩擦板とスチールプレートが離れる。なお、スチールプレートにはそり加工を施し摩擦板との接触面積を少なくしてあるので軸が回転しても動力は伝わらずクラッチが中立になる。又、面圧力をやや弱目にして(油圧を減らす)摩擦力を落しスリップさせながら伝動する場合を「半クラッチ」と通称し、トローリング時の微速運転等に使用されている。
以上の各作用すなわちクラッチへの動力伝達径路および軸の回転方向について整理してみると次のようになる。
1] 中立時回転部分
入力軸(1)→前進クラッチ歯車(5)→後進クラッチ歯車(6)
2] 前進時の動力伝達径路
入力軸(1)→前進用クラッチ(3)→前進用駆動小歯車(2)→減速大歯車(4)→出力軸(9)→プロペラ(10)
3] 後進時の動力伝達径路
クラッチ軸(1)→前進クラッチ歯車(5)→後進クラッチ歯車(6)→後進用クラッチ(7)→後進用駆動小歯車(8)→減速大歯車(4)→出力軸(9)→プロペラ(10)
(b) 前、後進切換弁、作動油圧調整弁
2・168図に切換弁の断面詳細を示す。切換弁を前進または後進に切換えると、油ポンプから送られた作動油は前進または後進クラッチの油圧ピストンと油圧緩衝絞り弁5]に送られる。右図のピストン位置で油圧ピストン室に作動油が充満すると左図のように油圧緩衝ピストン4]を調整ばね力に抗して図の右方に移動させる。油圧緩衝ピストン4]が図の右方に移動すれば調整ばねが圧縮されて作動油圧調整弁3]の開弁圧が高くなる。しかし、緩衝ピストンの右方への移動速度は作動油が緩衝絞り5]の小さなスキマを通って送られるため流量が少く動きが遅い。従って圧力はゆるやかに上昇するのでクラッチは円滑に接続される。
切換弁レバーを中立にすると、前進又は後進クラッチ室および緩衝絞り5]の油路はドレンに開放され、油圧ピストンは元にもどりクラッチは中立状態となる。