ウ 黒壁の取り組み
1] 地域資源に固執しない事業創造
(株)黒壁が設立された段階では、事業内容は決まっていなかった。そこで、買い取った黒壁の建物の保全・活用を考える際に、中心市街地の活性化も視野に入れた展開が検討された。青年会議所を中心とする事業内容を模索する議論の途上では、以下の点を視点に検討が進められた。すなわち、
○大規模小売店舗など大企業では真似の出来ないもの
○商店街との取扱業種と競合しないもの
○来訪者増を図ることのできるインパクトのあるもの
という点を軸に、黒壁の建物を含めた「歴史性」、400年伝承継続した町衆による曳山祭りを含めた「文化芸術性」、世界に通じる本格志向を含めた「国際性」の3つのテーマを満たす事業展開を指向することとした。
その結果、ガラス事業を選択することになるが、もともと長浜市とガラスは縁がまったくなかった。しかし、産業観光としてのガラスの市場性に着目し、長浜を日本のガラスのメッカにしようという経営者の強い信念のもとで、平成元年に黒壁ガラス館が開館された。
2] 徹底した本物志向を通じた経営理念の確立
来街者に「売る」、「つくる」、「みせる」というシーンづくりを目指し、ガラス文化の徹底した追求の中から事業化をめざすという経営理念のもとで、利益の大部分(年間3000〜5000万)を職員を海外留学、製品の買付けおよびオークション等への派遣を通じて人材育成に努め、本格的なガラスの制作技術者や目利きを育てていった。このことが本格的なガラスファンを呼び込み現在では長浜市への年間来訪者は100万人を超え、その4割強がリピーターという結果につながっている。
3] どこにでもあるものを拒否し商店街を活性化
黒壁を中心に来訪者が増えてくると、空洞化した商店街の空き店舗や周辺の空き屋などに全国から多くの出店希望があったが、「全国どこにでもあるような物に長浜という判を押して安易な仕入れと売り方をしている土産物屋がはりついたら商店街ではなくなる」という経営者の信念のもとで、郊外の大規模店舗と棲みわけるノウハウや技術、手づくりのものを持った店を面接し、空き店舗を埋めていった。その結果、市を縦断する北国街道沿いの古家(民家、商家)をリニューアルし、その中にガラスショップや工房、レストランなどが立地するようになった。