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4 GATT/WTO協定についての判例

(1) GATTに対する判例の態度

ア GATTの直接効果

欧州裁判所は、国際条約が個人に国内裁判所において主張できる権利を付与することを直接効果としばしば表現しているが、その実質は条約の自動執行性であると考えられる(9)。そして、裁判所は、1970年代から一貫してGATT規定が直接効果を生じることを否定している。

すなわち、GATTの直接効果について始めて判断を下した、1972年のInternational Fruit Company事件では、原告は、委員会規則を根拠にした加盟国当局の決定の無効を求めて国内裁判所に提訴し、委員会規則のGATT 11条違反を主張した(Joined Cases 21 to 24/72 International Fruit Company v. Produktschap voor Groentenen Fruit,[1972] ECR 1219)。しかし判決は、GATT前文が、互恵的かつ相互的に利益を与え合う関係に基づいて行われる交渉の原則を基礎とし、本文もその規定の柔軟性、特に例外の可能性を与える規定、例外的な困難に直面した時に取られる措置、締約国間の紛争解決によって特徴付けられていることを理由に、GATT 6条が市民が裁判所で援用できるEC法上の権利を市民に付与することはできないと判断した(Id. at 1226, para.8)。

翌1973年のSchluter v. Hauptzollamt Lorrach事件判決(Case 9/73, [1973] ECR 1135)も、理事会規則及び委員会規則のGATT違反が国内裁判所において争われた事案であり、原告は、前年のInternational Fruit Company事件判決を援用して、GATT規定の直接効果を主張した(Id. at 1142)。判決は、同事件判決と同趣旨であり、GATTがECを拘束することを確認した後に、GATTの意味・構造・文言を検討し、同様に直接効果を否定している(Id. at 1158)(10)

これらの判決は、いずれもEC立法に従った加盟国の行為が国内裁判所で争われ、その中でEC立法のGATT違反が問題となった事案であった。これに対して、1983年のAmministrazione delle Finanze dello Stato v. SPI事件判決では、加盟国法による従価税(ad valorem duty)が、域外からの様々な輸入品に対して賦課されたことがGATT違反であるとして争われ(Joined Cases 267 to 269/81, [1983] ECR 801)、原告は、支払った税金の還付を求めた。本件では、EC立法と係わりない加盟国の行為とGATT、具体的には、イタリー税制のGATT 2条適合性が争点であった(11)。判決は、GATTの統一的適用の重要性に言及して(para. 14)、GATT規定に対する欧州裁判所の管轄を肯定する。しかしその後、前述のInternational Fruit Company, Schluter両判決に言及して(para. 23)直接効果を否定する。同事件では、法務官もGATTの直接効果を否定していた。

このようにして、GATT規定に依拠して、個人が、加盟国の行為を争うことはできないことが判例上確立した。このことは、1990年代にも変化がなく、GATTとロメ協定の直接効果が争点となった、1995年のAmministrazione delle Finanze dello Stato v. Chiquita Italia事件判決は、やはりGATTの直接効果を否定している(Case C-469/93, [1995] ECR I-4533)(12)

 

イ EC機関の行為に対する訴訟

(ア) 原則としての否定

加盟国又は個人が、EC機関の行為のGATT違反を無効訴訟において主張することは、GATTの直接効果とは別の場面である。前述のように直接効果とは、加盟国の行為を争うことを前提としている概念だからである(13)。しかし、欧州裁判所は、この場合もGATTの直接効果を否定したのと同様の理由により、GATTが裁判規範として機能することを原則的に否定している。

例えば、1994年のGermany v. Council事件判決は、International Fruit Company事件判決の理由付けをそのまま繰返して、加盟国が無効訴訟においてGATTを援用することも否定している(Case C-280/93 Germany v. Council, [1994] ECR I-4973)(14)。同事件は、ドイツが、理事会規則の無効を求めて提起した無効訴訟であり、ドイツは、バナナ市場の共通組織に関する理事会規則が、ロメ協定及びGATT上の義務と矛盾することを無効の理由として主張した。

 

 

 

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