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このことを最初に示したのは、EEC・ギリシャ間の連合協定の解釈が争点となった、1974年のHaegeman v.Belgium 事件判決である。同判決は、理事会によって締結された連合協定は、ECに関する限り、先行判決訴訟を定めるEEC条約177条(現234条)1項(b)に言うEC機関の行為であり、協定発効の時点から、「EC法の不可欠な一部(an integral part of Community law)」を構成すると判示し、したがって欧州裁判所が同協定の解釈について先行判決を下す権限を有すると判断し(Case 181/73 Haegeman v. Belgium [1974] ECR 449, at 459-60, para.4-6)、以後の判決も若干の表現の変化はあるが、条約の法源性を一貫して承認している(5)

 

イ 国際条約の位置

それでは、条約は、EC法の階層構造の中ではどの段階に位置付けられるのであろうか。条約は、共同体設立条約に根拠を有する二次立法より上位に位置する。しかし、条約の締結権限は設立条約によって与えられるので、条約は設立条約よりは下位に位置する(6)。条約がこのように二次立法より上位にあるからこそ、加盟国の義務違反に対する訴訟(EC条約226条)、EC機関の行為に対する無効訴訟(同230条)・加盟国の行為に対して国内裁判所に提起された訴訟についての先行判決訴訟(同234条)などの訴訟において、条約違反の主張がなされるのである(7)

 

3 裁判規範としての国際条約

(1) 序

EC法秩序において、以上のような位置を占める国際条約が、裁判所(国内裁判所と欧州裁判所)において裁判規範として援用される状況には、訴訟の対象が何であるか、また原告が誰であるかによって、幾つかの異なる形態があり、それぞれ異なる訴訟形態を採ることになる。以下には、それらを整理する。日本においても、WTO協定が裁判上援用される場合を考えるために参考となろう。

 

(2) 国際条約違反の加盟国の行為に対する司法審査

ア 義務違反の加盟国に対する訴訟

加盟国の行為が対象となる場合の第一は、EC法上の義務に違反した加盟国に対する「義務違反の加盟国に対する訴訟」(EC条約226条)である。欧州委員会は、加盟国が義務違反を行っていると判断する時は、自主的に是正措置を取ることを促した後に、欧州裁判所に訴訟を提起することができる。裁判所が違反を認定すると、加盟国は、判決に従って必要な是正措置を取らねばならず(同228条1項)、加盟国が判決に従わない場合には、委員会の申立により金銭的制裁が課されることもある(同条2項)。国際条約がEC法の法源である以上、委員会は、国際条約に違反した加盟国に対してもこの訴訟を提起することができ、実例もある(8)

 

イ 国際条約の直接効果に基づく訴訟

第二は、国際条約の規定が直接効果を生じ、個人(自然人ないし法人)に対して国内裁判所において主張できる権利を付与する場合である。この場合個人は、国際条約を根拠にして、加盟国の国内裁判所において、加盟国による行為の国際条約違反を争うことになる。その場合、対象となる加盟国の行為は、加盟国の独自の行為であるか、EC立法を実施するための加盟国の行為であるが、いずれにせよ、加盟国の行為が国内裁判所で争われた場合には、事案は先行判決訴訟手続(EC条約234条)により、欧州裁判所に送付され、その判断を受ける。

 

(3) 国際条約違反のEC機関の行為に対する訴訟

加盟国の行為だけでなく、EC機関の行為の国際条約違反が争われる場合もある。加盟国ないし個人は、EC条約の定めるところに従い、原告としてEC機関の行為を欧州裁判所で争うことができる。典型的な場合は、EC条約230条の定める無効訴訟であり、加盟国は常に、他方個人は、EC機関の決定の名宛人となっているか、それが自己に「直接かつ個別的に(direct and individual)」関係する場合に、EC機関の行為に対する訴訟を提起できる。後述のように、一定の条件を満たす場合には、EC機関の行為がGATTに照らして審査されることを欧州裁判所の判例は認めている(Case 70/87 Fediol [1989] ECR 1781; Case C-69/89 Nakajima [1991] ECR I-2069)。

 

 

 

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